秋の道東 2、西別川

台風で荒れた川ではニジマスが待っていた。


秋の道東 2、西別川

ホテルパコ釧路前、朝4時。ひろしさんが待っていた。今日は私、ハミングウエイさん、鵜
住居さん、shinyaさんと5人で西別川に行く日である。こんな早朝に街行く人が多いのには
驚く、さすがに道東一の都会、釧路である。ホテルパコから若い男女二人連れが出てくる。
それを見てひろしさんが「まったくラブホテル替わりに使うんじゃないよ・・」と毒つく。

コンビニで食料を調達して2台の車は一路西別川の送電線ポイントへ向かう。ひろしさんは
2時間しか寝ていないそうだ。用事で来られない西別川さんに替わって今日1日ガイド役を
かって出てくれたのだ。そのために寝ないで帯広から2時間かけて走って来てくれたのだ。
ありがたい事だ。                                 

送電線ポイントに着いた時はすっかり明るくなっていて、一気に釣り気分が盛り上がる。夏
のOLMでバラした60センチのアメマスや、6ポンドのラインをブチ切ったニジマスを思い
だし武者ぶるいを感じる。忘れ物をしないように釣り仕度をするが、気持ちが急いでいるの
が良く分かる・・・・こういう時は概して結果は良くない事が多いのだが・・果たして??

牧草地を歩いて入渓点に行く。ところが何と牧草地に車が止まっている。ワゴン車だ。おそ
らく密漁者のものだろう。我々の入渓点のすぐ上に密漁者が網をかける場所があるのだそう
だ。この川に登ってきた鮭を捕ってどうするのか?卵が目的なのだそうだ。腹を割いて卵だ
け取り、身はそのまま川に捨てるのだそうだ。そんな話を聞くと何ともやりきれない気分に
なってしまう。                                  

笹の茂った斜面を下り、何度か薮のアップダウンを繰り返し、西別川の河畔まで降りた。ひ
ろしさんが川に入る。鵜住居さんの第一投にアタリ!竿が満月のように曲がり「おお〜〜、
釣れたあ〜〜第一投!」の声で上がってきた30センチくらいのアメマスは水しぶきを上げ
て竿の先にブルンブルンと踊っている。こちらはまだ準備も出来ていないのに・・・先を越
されてしまった。と思っていたらひろしさんにもアタリ・・・おお〜これもアメマスだあ。
私も急いで川に入りラパラCD5を投げる。岸際を引いてくるとガツンとアタリ!グングン引
くのを寄せてくる。ちょっと小さめ20センチのアメマスが私の西別川第一号となった。 

shinyaさんが先行する形で釣り下る。ポツリポツリと釣れるが入渓点のように活発に釣れる
ほどではない。ときどき鮭の影がユラッと見える。ゆっくりゆっくり上流を目指すその体は
白い傷があちこちに見えて痛々しい。                        

夏に入った時よりもずいぶん増水している。川底は浅いところと深いところが交互に繰り返
しているのだが、濁っているのでつま先に全神経を集中して一歩一歩下っていく。足元が砂
なので立っていると強い水流で掘られて5センチくらいすぐに沈んでしまう。重い流れだ。

対岸に渡る場所を探しながらゆっくり下流に歩いていた。すでにshinyaさんは対岸に渡って
いる。鵜住居さんが渡ろうとしている所はいかにも深い。後ろから「深いよ!」と声をかけ
たのと鵜住居さんの体がズズッっと流されたのが同時だった。「流される・・・」鵜住居さ
んはこちら(上流)に向いて浅いところに戻ろうとする・・・ひろしさんが「ダメだ!こっ
ちじゃない!下に下るんだ」と叫ぶ。首まで水につかって鵜住居さんが向きを変えて下流に
泳ぐ。                                      

どうなるかハラハラと見ていたが何とか対岸に着いた。皆が寄っていく「大丈夫かあ〜?」
「いやあ、やっちゃいましたよ〜」と照れながらも鵜住居さんの行動は素早い。ネオプレー
ンを脱ぎ、濡れた服を脱いで水を絞る。ウエストベルトをしっかり締めていたので下半身は
大丈夫だったようだ。さすがに要所はおさえてある。                 

鵜住居さんが身繕いしている間小休止のような時間となった。ひろしさんが言う「ほら去年
山男魚さんが35センチを釣った場所ですよ」言われて見て驚いた。川が無い!・・・  
二股に分かれて流れてたはずの川が砂で埋まってしまって普通の岸になってしまっている。

9月に道東を襲った連続台風のおかげらしい。川岸の草がすべて同じ方向になぎ倒されてい
る。川岸の木には目の高さまで枝に枯れ草や葦が巻き付いている。川の流れがこの高さまで
増水して暴れたのだ。想像するのも難しい光景である。我々はそんな川で釣りをしている。

川が蛇行しているため不思議な景色に出くわす。川は大きく右へ曲がって流れているのに草
のなぎ倒されている方向が左に向いている。大きな蛇行を無視する程の水量がこの川を襲っ
たのだ。水は全てをショートカットして海まで駆け下ったのだ。魚達はそんな中でけなげに
生きていて、こうして我々を楽しませてくれる。ネイティブの強さにつくづく感心する。 

大きな木の陰からラパラを流心の梅花藻を越すように投げて軽くあおりながら引こうとした
ら、いきなりガツンと来た!「おお〜久しぶりにでかいぞ・・」ゆっくりとリーリングする
が、魚が寄ってこない。いきなり上流に走る、それをグっと止めると今度は下流に走る。 

「・・・これはニジだ」立っている場所が水面よりも高いのでちょっと不安だったが強引に
巻く。竿先5メートルまで寄ってきた魚の体側に鮮やかな朱色のレインボウバンドが見えた。
「よおし、ニジだ、ニジだ。」ゆっくりためて抜き上げる。ハミングウエイさんが横にやっ
てきた。ところが岸に上げようと竿を持ち上げたところでブルブルンと暴れて、川にボチャ
ン・・・・ああ〜・・・「せっかく写真を撮ってやろうと思ったのに〜・・・」とハミング
ウエイさん。「30センチあったね〜ここまで来たんだから釣った事にしよう」と言うと、
「う〜〜ん大甘だけどカウントしてやろう」とハミングウエイさん。ありがとう     

さて、たいぶ下ってきたが脱渓点はまだまだ遠い。5人でゆっくり釣っていたのだから仕方
ないのだが、もう川から上がって川岸を歩こうという事になり、ここから薮漕ぎ死の行軍が
始まった。                                    

西別川右岸を脱渓点に向かって歩く、歩く、ひたすら歩く。時に道に迷い、時に崖を登り、
薮に足を引っかけ汗が流れるのをふく間もなく歩く。暑い・・・・           
熊避けの鈴がまるで巡礼の鈴のように川辺に響く。無意識に歩いていると本当に巡礼のよう
な気分になってくる。行けども行けども脱渓点の橋は見えない。            

歩き始めてかれこれ1時間、道らしきものが見えてきた。おお〜やった、橋は近いぞ・・・
朝、寒かったのでフリースなんぞを着ていたので、暑くて暑くて、まるで地獄のようだ。 

やっと道路にたどり着いたが、汗だくである。上着を脱いでシャツ1枚になって歩く。まだ
これから車まで2キロくらい歩かなくてはいけないのだ。川沿いに道がないからすごい遠回
りして歩かなくてはいけないのだ。町中を4人の男がルアー竿を持ってウエーダー姿で歩く
図はどうにもミスマッチだが、仕方ないのだ。車に戻った時はヘトヘトだった。     

こうして西別川の釣りがは終わった。