新緑、山女魚、ホームリバー
いつもの渓流へ行く。それは自然な行動として体が反応する。新緑、山女魚、ホームリバー
４月２６日、日曜日。いつも行っている那須の渓流に行った。
西那須野塩原インターから山に向かう道は、両側のつつじの花の燃えるような赤に
彩られていた。車の窓をいっぱいに開けて風を顔に感じながら山へ向かっていく。
両側の雑木林の新緑が鮮やかに目に飛び込んでくる。朝方の小雨模様の天気のせい
か、木々の幹や枝は黒々と沈み、新緑の緑とのコントラストがさらに鮮やかさを増
している。「もうこんな季節になっていたんだ・・・」つぶやきも風に飛ばされ緑
の中に消えていく。
先週、伊豆の某渓流でボウズを食らった。分かりやすく言えば釣れなかったのだ。
その反省ではないが、ホームリバーの様子を見たくなり、こうして日曜日というの
に出掛けてきた。どうせ人がいっぱいいるはずだから、まあ釣れなくてもいいかと
思っていた。
いつもの道を登っていく。カーブのところで遠くまで見渡せる場所があり、そこで
車を止める。ここから見える山には針葉樹が無い。正確に言えば植林された杉や桧
がないのである。これだけの広い面積に植林の跡がないということは稀有のことで
ある。
落葉広葉樹だけの山というのは何か気高いものを感じる。ましてや今は新緑の季節
木々の新芽が吹き出し色とりどりの緑（変な表現だがいろいろな緑色ということ）
にポツリポツリとヤマザクラの白やピンクが自己主張していて、何とも言えない爽
やかさである。
そこかしこに山菜採りや魚釣りの車が止まっていて、日曜日なんだという事を確認
させてくれる。目的の場所に着くまでいったい何台の車を見ただろうか？すれ違う
車もやけに多い。「ゴールデンウィーク前に一度・・・」考えていることは皆同じ
なのかも知れない。
いつもの橋に着いたのが１１時。ゆっくり仕度して川に出ると、下流から釣り人が
３人上がってきた。「釣れましたか？」「いやあ朝からやって３つだよ。こんなに
澄んでるとダメだねえ」釣り人達はニコニコ笑いながら上流へと歩を進めていく。
この川では会う人毎に声をかけてしまう。一日良い気分で釣りをしたいからだ。
何故って？それは単にここが私のホームリバーだからだ。
緑がまだ薄い木々の下を透明な流れが走る。いつも来るたびに思うのだが、この川
の水は本当にきれいだ。今日は川面に緑を映しているので更にそう思う。それにし
ても思ったより水が少ない。
橋のポイントでは出なかった。その上の瀬で出たのが１８センチの山女魚、何とも
言えない宝石のような色に見入ってしまう。同じ場所でさらに１２センチくらいの
チビ山女魚がフライをくわえてくれた。
いつだったかサルが群れていた木の下のポイントで大きな水しぶき、反転する魚の
オレンジ色の測線が見えた。あせって、はずした。大きな山女魚だった、もうおそ
らく出ないだろう。
上流から釣り人が二人歩いてくる。「こんにちは、上の方はどうでしたか？」一人
は「上はダメだ。」と言い、一人は「上に三人いるよ！」と教えてくれる。不思議
だが声を交わす前と後では別人のように表情が変わる。おそらく自分もそうだった
んだろうと想像して何だかおかしくなる。
沈み石のポイントで１６センチの山女魚が出た。ここはいつでも魚が出てくれるの
で大好きなポイントだ。やはりホームリバーはいい。どんなに人が入っていても魚
が挨拶してくれる。
木の芽も草も緑を日増しに濃くしていく、そして鬱蒼とした山になっていく。
岩をガッチリつかんだブナの大木がある限り、この川の水が無くなることはない。
ブナの根は岩をくわえ斜面の崩落を防いでいる。山も木も川も魚も生きている。
この川で感じる「何か」・・それは 生きている実感のようなものかも知れない。
この川で癒される自分を誉めてやりたくなる。
上の橋のポイント近くの河原に「たらの芽」が落ちていた。おそらく山菜採りの人
が選別したあと捨てたものだと思うが、思わぬ収穫にニンマリ。今夜はこれを炒め
て晩酌の肴にしよう。
やはりホームリバーはいい。
