岩井渓一郎さんと千曲川へ

ひょんな事から岩井さんと釣りに行くことになった。


岩井渓一郎さんと千曲川へ釣りに行く。

5月1日小鹿野の割烹「たじま」で保存会の副会長と会報作りの打ち合わせをしようとい
うことになり夜7時に待ち合わせた。店に行ってみたらそこに岩井さんが友人3人と飲ん
でいた。久しぶりの帰郷なのだそうだ。                      

7時から12時まで大いに飲みながら語らい、ヒョンな事から翌日千曲川に釣りに行く事
になった。岩井さん家族、友人2人そして私というパーティーだ。千曲川で岩井スクール
の生徒さんとのプライベートの釣りなのだが、それに割り込ませてもらう事になった。 

翌朝9時半、岩井さんの実家に集合。三台の車は志賀坂峠から上野村、ぶどう峠から南相
木へと向かう。私と友人二人は途中別れて山ウド掘りに行く事にした。途中南相木の雑貨
屋さんで日釣り券を買う(1570円)その店の前の淵では25センチくらいのヤマメが
しきりにライズしている。今なら一発で釣れるんだが、取り合えず山ウド掘りがが先だ。
釣りは千曲川ですれば良い。                           

山ウドは時期が早かった様でまだまだ小さかったが、それでも紙袋にいっぱいになるくら
いの量があった。ワラビもあって大収穫、今の時期でなければ採れない旬の味である。山
ウドの身は酢味噌和え、葉は天ぷらが絶品である。                 

南相木から北相木、そして川上村へと長いドライブで新緑の景色を堪能した。川上村に入
ると山の上はまだ新芽が出ていなくて茶色である。それだけ気温が低いのだ。千曲川が岩
魚の川というのが実感として分かる。                       

岩井さんはすでに宿についていた。川の場所を決めて待ち合わせる事にして、我々3人は
川へ行く。川はどこも人がいっぱいで入るスペースは無い。釣り人のほとんどがフライフ
ィッシャーである。有名な川だしゴールデンウイークだしということで人出が覚悟しては
いたのだがこれほどとは思わなかった。我々は車で移動しながら場所を探す。やっと体育
館前のプールに少しの空きを見つけて入ることができた。              

このプール、今日一日でいったい何人の釣り人が攻めたであろうか? じっと目をこらす
がハッチも魚影もない。これはもうキャスティングの練習とメンディングの練習だあっと
ばかりひたすら目の前の流れにフライをキャストする。               

2時間ほど粘ったがまったく反応なく、下流で岩井さんが始めたということなので、それ
を見に行くことにした。養魚場前のプールで岩井さんは釣っていた。流れに立ち込んで黙
々とキャストを繰り返している。後ろの岸で奥さんと娘さん数人のフライ仲間が見つめて
いる。軽く挨拶してギャラリーに加えてもらう。岩井さんの真後ろに陣取り、そのロッド
捌きやライン捌きを研究する事にした。                      

ロッドの2倍以上もあるロングリーダーとティペットを鮮やかに操りフライをポイントに
運ぶ、それもフォルスキャストなしで・・・・・見ていると分かったような気になるのだ
がとても自分に出来る技術ではない。ひたすらキャストのタイミングの取り方を盗もうと
岩井さんのキャストに合わせて右手を振る。ラインを操る、フライを交換する、キャスト
する。この一連の動作が流れるようにスムーズである。               

この日は釣れたという話は誰からもまったく聞かなかった。私に至ってはまったくかすり
もしなかった。友人達と3人で対岸の護岸の上に並んで座り、岩井さんの釣りを見学して
いた。こんな不利な条件のなかで岩井さんが釣った。型は狙っていた岩魚よりも小型だっ
たが、やはり違う、さすがだ。                          

夕方近くなったので岩井さん家族に別れの挨拶をして我々3人は帰ることにした。護岸の
上を歩いて車のところに戻りながら一人が「あれ?おい・・・あれ・・魚じゃないか?」
と変な声を上げた。三人でじっと流れを覗き込む。そこには50センチはあろうかという
魚がユラユラと淵尻の浅瀬に定位していたのである。                

さあ、ガ然色めき立った三人は代わる代わる自分の考えたフライをキャストする。私はエ
ルクヘアカディス16番、インジケーターを付けたヘアーズイヤーを試したがピクリとも
しなかった。友人二人もいろいろフライを変えてみたが反応しない。するとその大岩魚が
ライズした!バシャ〜ン!!と巨大な水しぶきが上がり、三人はますます熱くなった。 
しかし、我々のフライにはまったく見向きもしない。何だかバカにされているようだ。 

かれこれ一時間もう暗くなってフライも見えなくなりそうになった頃、下流から岩井さん
家族が連れだって歩いてきた。「何やってんの?こんなところで」「あそこにデカイのが
いてさあ・・」「俺にもやらせてよその竿でいいから」と友人のロッドを持つと岩井さん
は無雑作にキャストを始めた。                          

5分後、何と岩井さんがそのバケモノを掛けた!大きな水しぶきとともに巨大な銀色が淵
を右へ左へ走る。ロッドは満月状態、岩井さんはバット部を右手でささえ必死に耐える。
「だめだ、ラインがからんでリールが巻けない・・・」               
私は3メートルの護岸を飛び降り、ランディングネットを持って淵の中を魚に向かって走
った。その瞬間「ああ〜〜」っという声とともにロッドが直線になり、ラインが風に泳い
だ・・・・ラインブレイクである・・・・残念。                  

我々が三人がかりで一時間以上もかけて攻め続けた後でこれである。最後の最後に凄いも
のを見せてもらった。プロの腕に脱帽だ。