温泉と釣り

温泉宿「萱の家」(かやのいえ)とその前の渓流での釣り。


温泉と釣り

群馬県川場村、ここは川場スキー場のスキー客で冬にぎわう山深い村である。そのスキー場
のとなりに早瀬の多いヤマメの川「薄根川」(うすねがわ)がある。そしてその渓谷沿いに
今回泊まった温泉宿「萱の家」(かやのいえ)がある。                

5月、新緑の季節であり山菜の季節でもある。温泉宿「萱の家」の料理は精進料理で、この
季節は山菜を中心にした豪華な料理を楽しめる。カミさんの希望でゴールデンウイーク翌週
の週末に予約を入れた。部屋数が少ないので予約なしに行くのは難しい。そして、私の狙い
は宿の前を流れる薄根川のヤマメであることは言うまでもない。            

当日宿に着いたのは午後4時。チェックインして早速私は川へ行く。夕食の時間は6時から
なので1時間程竿を振る時間があるのだ。車で下流へ走り、川の様子を見ながらポイントを
探す。ちょっとした広場に車を止め、仕度して川に入る。わずかな時間だが気持ちは充実し
ている。                                     

薄根川の流れは清冽で、段差のある流れはフライでは少々荷が重そうだ。ショートリーダー
でテンカラのような釣りにするしか無さそうだ。9フィート6Xのリーダーをラインに結び
広い場所のみを選んでフライを投げる。小さい瀬脇のポイントからパシャッとライズ!  
流れが速すぎてフライを食べ損ねたのか?アワセが遅くて乗らなかったのか?・・とにかく
魚はいる。このライズでとたんに気持ちが集中していくのが分かる。          

やや水深のある広い流れ出し、夕方の逆光でフライが見にくいが眼をこらす。ピックアップ
寸前にバシャッと水しぶきが上がる。大きく竿をあおってラインをたぐると竿先に心地よい
振動が伝わってくる。いつもの事だがこの瞬間がたまらない。エルクヘアカディス16番を
口の横にくわえてネットに納まったのは22センチ程のきれいなヤマメだった。時間の無い
釣りであきらめかけていた時のヒット、最高の幕引きである。写真を撮ってそのままリリー
スするとヤマメはアッという間に消えていった。                   

この「萱の家」の浴室はとても広くて天井が高い。20畳ほどもある浴室の中央に8畳ほど
の浴槽が作られている。すべて桧の浴室である。湯に浸かりながら見る窓の外の新緑と天井
の梁の見事さ。何ともくつろぐ贅沢な大きさである。ゆっくりしたいところだが時間が無い
大急ぎで体を洗い、夕食の席に行く。                        

夕食は巨大なクスの木のテーブルを囲んで、それぞれの部屋の宿泊客が並んで食べる。膳に
はすでに料理が並べられている。                          

精進料理といってもボリュームは満点、特にアツアツの天ぷらが食べられたのには大感激。
温泉宿の天ぷらと言えば冷めた天ぷらが通り相場なのに、ここは違っていておいしかった。
たまたま隣になった外国からのお客様も、この山菜中心の精進料理はいたく気に入ったよう
だ。しきりに材料の山菜や作り方の事を聞いている。丁寧に作られた料理を食べながらゆっ
くりと時間が流れていく。                             

BGMはモダンジャズかクラシックが会話を邪魔しない程度に静かに流れている。電波の関係
でテレビが映らないのでどの部屋にもテレビが無い。こんな宿ではむしろそれが自然に思え
てくる。都会の疲れを癒すにはこんな宿がいい。                   

翌朝4時半、一人で宿を抜け出して薄根川へ向かい、夕べのポイントから入渓する。朝食ま
での3時間を楽しむ朝の釣りである。すっかり明るくなった河原で気持ちよくキャストする
とフライも気持ちよく飛んでいく。夕べと同じ場所で18センチが出た。更に上流へ行き、
両側から木が被っている浅い流れで25センチのヤマメが出た。この大きなヤマメはいきな
り下にあった淵まで走り、グングンと竿を絞って寄ってこない。あわてて魚に合わせて走り
じっくりねばってやっとの思いでネットに納めたのだが、手が震えて困った。      

更に上流の橋の下に絶好のポイントがあった。そっと近づき一番のポイントにキャストする
といきなりバシャとアタックしてきた。速い流れにラインが流されてアワセが効かず、無念
の空振り。しばらくポイントを休ませて再度挑戦した。今度は慎重にフライを流す・・・・
案の定一番きわのところでフライにライズ!しっかり合わせて足元の淵まで誘導してネット
に納めたのが23センチのヤマメだった。朝の釣りはここまでで終了。3時間に型揃い3尾
と大満足の釣りが出来、最高の気分で宿に帰ることが出来た。             

朝食も精進料理で手の込んだものだった。柔らかく炊いた玄米ご飯がお腹にやさしく、体に
エネルギーが充填されていく。夕食から時間がたっているのと朝が早かったこともあり、お
なかはペコペコ、玄米ご飯をおかわりしてしまった。先程の興奮がよみがえってきて、いつ
になくハイな私でありました。                           

そして、朝食後ひと休みしてから誰もいない温泉に浸かる。              

伸び伸びと体を伸ばし、広い空間を独占してゆっくりとくつろぐ。暖まった体のほてりを冷
ますため、桧の床に大の字に寝転がる。乾いた桧の床に汗が流れて人型をつくる。これを何
度も繰り返す・・・なんて贅沢な時間なのだろうか。                 

温泉と釣り、これをセットで満喫することはなかなか難しい。どちらかに不満が残ったり、
どちらも不満だったりする事が多く、いつからか両方満喫することを諦めてしまっていた。
今回はたまたま「萱の家」で両方を満喫する事が出来たのだが、温泉と料理はともかく、釣
りの方はいつも同じという訳にはいかないだろう。釣りはあくまで「ついで」という方には
この温泉はイチ押しである。                            

尚、日釣り券は「萱の家」の上流、二つ目の橋のたもとの家で購入出来る。