秩父岩魚を探して
秩父岩魚の姿を見たい。そんな思いが日増しに強くなって・・・
秩父岩魚を探して
ネイティブの秩父岩魚を見たい、そんな思いが湧いてきたのはいつ頃からだろうか?昨年
保存会の集まりで岩魚をやろうという事になったときからかも知れない。秩父岩魚の探釣
会をやろうという話が丹沢パティオで出たとき、平日にもかかわらずすぐ参加を表明した
のは、とにかく秩父岩魚の生きている姿を見たかったからだ。撮影用のアクリルボックス
も作って準備万端である。
当日は朝5時に集合という事なので、前夜から集合場所に行って仮眠を取ることにした。
参加者は4人。丹沢パティオ主催のNAKANOさん、瀬音の重鎮 清石さん、そしてガイド
役の秩父在住の安谷さんである。理論派最強のメンバーと言える3人との釣行は色々な話
が聞けそうで楽しみだ。
車の中で寝ていたら、窓の外のコンコンという音で目を覚ます。外へ出るとヘッドランプ
を付けて安谷さんが立っていた。細かい雨が降っている。「おはようございます。」
「雨ですねえ・・・」合羽のズボンを履き、ウエーディングソックスとシューズを履く。
足ごしらえはこれで充分だ、上は合羽を着れば良い。そうこうしているうちにNAKANO
さんのパジェロが到着して、NAKANOさんと清石さんが降りてきた。全員集合だ、まだ空
は暗く山は雲で見えない。私は安谷さんに折りたたみ傘を借りる。
4人で森林軌道跡の道を黙々と歩く。1時間ちょっとの歩きだということでゆっくりとペ
ースを守って歩く。明るくなった渓谷はすばらしい景観が続く。巨木、巨岩の間に川の水
が白い泡と流れを見せている。なんと爽やかな風景。
取水堰に着く、堰の上と下ではまったく水量が違う。これほど水量が違うとは驚いた。本
谷は堂々とした大渓流である。取水堰にはホンの申し訳程度の魚道が着いているが、ちょ
っと魚が登るとは思えない小さいものだった。堰で流れを遮断する以上、それなりの魚道
が必要なのは言う事もない。それなりの魚道が無いと川から魚がいなくなってしまう。
目指す谷の出合いに着いた。いよいよ秩父岩魚と会えるのだ・・・と思うと気がはやる。
今日は4年ぶりにエサ釣りをする、フライを始めてからエサ竿を手にした事はなかったの
だが、探釣会という事で確実に多くの個体を確認するにはエサ釣りがベストだからだ。
久しぶりの川虫捕りをする。要領は忘れていないものだ、鬼チョロがよく捕れる。5、4
メートルの硬調竿に2メートルの仕掛け、小豆大の板オモリ。これが私の岩魚釣りのスタ
イルである。この谷は巨岩が多く、遡行が厳しいのだが、そこは4人とも只者ではない。
猿のように軽々と上流へと足を運ぶ。
しかしである、ポイントは無数にあるのだが、アタリはまったく無い。交互に場所を譲り
ながら上へ上へと遡行する。NAKANOさんは毛針のタタキ釣りとテンカラを交互にやりな
がら遡行していく。清石さんはオモリ無しのエサ釣り、安谷さんはエサの流し釣りとテン
カラ釣りをやっている。でも、誰にもアタリが無い。
それにしてもすごい景色だ。V字谷は岩を削って更に厳しく深くなり、びっしりと巨木が
生い繁る。緑の天幕の中にいるような安心感があるのが不思議だ。深い谷を分け入ってい
くこの感覚は子宮を求める男の本能だと誰かの本に書いてあったのを思い出す。
巨岩を越えた淵の横にNAKANOさんと安谷さんが立ってこちらを手招きしている。岩魚が
釣れたのだ。近づくと小さな水たまりにこれまた小さな岩魚がへばりついている。小さく
ともこれが秩父岩魚だ。さっそく撮影準備に入る。作ってきた撮影用のアクリルケースに
水を入れ岩魚を入れる。きれいだ、紛れもなくニッコウイワナである。頭部に虫喰い紋も
ない。撮影の後、岩魚は元気に流れに帰っていった。
ところが何と釣れた魚がこれっきりだったのだ。たまたま岩魚の機嫌が悪かったのだろう
岩魚釣りではよくある事だ。4人で1尾、それも10センチ。私に至ってはアタリもまった
くない完敗。雨上がりで水量もあり、カゲロウもたくさん飛んでいた。釣れる条件は揃っ
ていたはずなのに釣れなかった。腕のせいではなさそうだが、4年ぶりに禁を破ってエサ
釣りをしたのにこの結果ではガックリしてしまう。・・・・ザックが重い。
帰り道、見事な景色の中森林軌道を歩く。ミズを摘みながら気分良く歩く。秩父の岩魚は
この景色の中に生きている。東北のそれと違い、少なからず神秘性を残していて、先人が
岩魚に畏怖の念を抱いたのも分かる気がする。釣れなくても、それはそれで納得出来るの
だ。何と言っても秩父岩魚なんだから。
秩父の険しい岩山が彼等を育んでいるのだ。