西別川の歓喜!

北海道OLM-2 巨大ネイティブレインボウとの格闘。


北海道OLM-2 西別川の歓喜!

OLM二日目の朝、今日も小雨が降っていてちょっと憂鬱な気分だ、おまけに寒い。今日は
上流組と下流組に別れて西別川に入渓する事になった。上流組は新谷さんがガイド役、梅
花藻のきれいな流れで毛針を振りたいと、大半の人達が上流に行く事になったようだ。 
昨日の寒さとKuny'sさんの「沈」事件が微妙に影響しているのかも知れない。     

下流組はガイド役の西別川さんとひろしさん、ムラサさんと道草さん、そして私の5人。
少数精鋭の一発勝負組である。目指すは大物一発狙い、トロフィーかボウズかという別名
「宝くじ2ポイント」である。5人ともやる気満々、勝負師の顔で、前日の山男魚さんの
32センチオーバーを目指す。私は、昨日の反省からラインを巻き直し、万全の態勢でひ
ろしさんの車に乗り込んだ。 さあ、出発だ。                   

「宝くじ2ポイント」に着く。ここは初めて来るポイントだ。見渡す限りの牧場が前面に
広がり、またしてもここを横断して釣り場を目指すという。遥か遠くに河畔林の緑がこん
もりと広がっていて、そこが川だと想像出来る。風を切ってさっそうと歩く4人の姿は自
信満々でなかなかカッコいい。                          

薮を漕いで川岸まで下り、西別川さんとムラサさんは下流へ、私とひろしさん、道草さん
は上流へと向かう。道草さんは今日は餌釣りである。この川を釣り上がるという事に一抹
の不安はあったが、大物釣らせ屋として定評のある道草さんが一緒なので大物の期待大で
ある。                                     

昨日よりも下流の為やや深く、流れの押しが強い。釣り上がりの為かも知れないが、とて
も川通しには歩けず、川に降りられるポイントを探しながらの釣りとなる。岸よりの薮漕
ぎからポイントポイントで竿を出すが、岸からのキャストではルアーが浮いてしまい上手
くいかない。18センチから20センチのアメマスが釣れるがそれもわずか。昨日の巨大
な魚の感触が残っている腕には物足りなさだけが残る。               

ひろしさんも道草さんも苦戦している。特に道草さんは餌竿を出せるポイントが少ないの
で、場所探しが大変そうだ。薮漕ぎばかりが延々と続き、木から落ちる雫でビショ濡れに
なる。途中高巻きする場所もあり、薮漕ぎの連続にいささか疲れる。魚は相変わらず出な
い。あの、輝く一瞬の光芒はいったいどこへ行ってしまったのだ? ここなら絶対にいる
という場所が何カ所かあったが、ついに水面が炸裂する事はなかった。

「kurooさん、もう時間だから上がりましょう。」ひろしさんの声が無情に響く。仕方な
い、こういう事もあるさ・・・条件はいいはずなのに魚が出ない。ルアーを巻き取り、終
了のセットをする。                               


薮を分け、急坂を直登するといきなり牧場に出た。我々がジャングルのように感じて彷徨
していた密林と大薮は、単なる西別川の河畔林だった事に気が付く。河畔林という存在の
重要さに気付くとともに、北海道の自然の豊かさを実感する。            
見渡す牧場の遥か彼方エゾシカの姿が見えた。バンビである。ジッとこちらを見ている。
手を振った瞬間、ピョンと飛び一目散に走って行った。走る姿がかわいい。更に歩いてい
る内にもう一頭のバンビに出会った。どうやら牧場の中に鹿道があるらしい。     
集合場所にはすでに西別川さんとムラサさんが待っていた。西別川さんが40センチくら
いのサクラマスを釣ったとのこと、ムラサさんがしきりに「いやあ、良いものを見せてい
ただきましたよ・・」と言っている。どうやら本命は出なかったようだ。       

集まって相談する。まだ時間があるので、もう1か所回って見ようと西別川さんが言う。
もちろん異存は無い。とっておきのポイントという事なので、やる気がムクムクと湧いて
くる。3台の車は雨の中を、大物目指してひた走る。あい変わらず回りは牧場ばかりだ。

秘密のポイントに到着。ここもやはりお墓のポイントだ、牧場の横にお墓がある。雨の中
身支度をして川に向かう。見事な河畔林に分け入って、川岸まで歩く。西別川さん、ムラ
サさん、私の3人が川に入り、ひろしさんと道草さんは岸を歩いて下る。道草さんは今度
はルアーで大物に挑戦のようだ。このポイントは禁漁区の上流で、ニジマスの多いポイン
トだと言う。                                  

西別川さんは何気なくヒョイっと投げ、「ほら、出た!」などと言いながら魚をバシャバ
シャさせている。まるで手品のようだ。一人だけ釣れるというのはいったい何が違うんだ
ろうか? 同じ所を攻めているんだが・・・・う〜〜ん分からん。          
カーブになっている大きなポイントで並んでルアーを投げる。ムラサさんの竿にアタリ!
「釣れたあ〜」の声に皆集まるがムラサさんは「小さい、小さい」と手を振っている。そ
れでもメジャーを当てようと言う事になり、測って見ると22センチのアメマス。「もう
少し大きいと思ったんだけどなあ・・・」とやや不満そう。同じ場所で同じ型を追加した
ムラサさん。                                  

カーブを曲がってルアー組4人が下流に向かいかけた時だった。           
「 うおおっ!でかい! 」                           
上で粘っていたムラサさんの声とも叫びともつかない音が川面に響いた。       
全員バシャバシャと音を立てて駆け寄る。                     
6、1メートルの竿が満月のように水中に突き刺さっている。            

「 おお〜〜やったあ、デカイ!大物だあ! 」4人が口々に叫ぶ。         
ムラサさんは胸まで川に浸かり、後ろ向きのまま流されるように流れを下ってくる。  
6、1メートルの満月のようになった竿が上から多い被さる木にぶつかる!と思った瞬間
上空の狭い空間をマジックのように竿を操ってかわす!。ほとんど首まで川に浸かりなが
らの技である。思わず息を飲む。                         

やや浅くなった広い場所でムラサさんが踏ん張った。バシャっと大きな水飛沫を上げて魚
がジャンプ!そして右へ左へと糸鳴りをさせる。                  
「 で、デカイ! 」「 おおお〜〜ニジだ!ニジだ!大物だあ! 」        
4人から歓声が上がる。腰まで川に浸かりながら冷静にやり取りするムラサさん。これは
すごい勝負だ!魚のファイトも釣り師の技も・・すごい勝負だ。こんな迫力ある釣り場面
はビデオやテレビでも見たことが無い。目の前5メートルの場所で現実に起きている格闘
なのだ。                                    

西別川の王者は簡単に抵抗を止めない。                      
糸鳴りをさせて上流へ、左右へと果敢に逃走を企てる。               
百戦錬磨の釣り師は熟練の技でそれを阻止する。                  
見応えある攻防がしばらく続き、やがて王者が釣り師の技に白旗を上げる時が来た。  
「 顔が出た! 」 「 よおし!そのまま、そのまま。 」            
回りの方がうるさい。ムラサさんはあくまで冷静だ。タモに手がかかる。このタモはお父
さん手造りのもので、昨日壊れてしまい修理しなくていけないんだと言っていたのを思い
出した。「ムラサさん、タモやろうか?」と聞くが「大丈夫、大丈夫」と余裕の表情だ。

歓声の中、大きな水しぶきとともに巨大なレインボウがムラサさんのタモに納まった。 
ひろしさんがそれを受け取り、両手で抱えて岸へ運ぶ。ムラサさんは極度の緊張から開放
されて歓喜の大爆発。両手を広げて「やったあー!」と叫ぶとそのまま川に背中から飛び
込んだ! お〜い、大丈夫かあ!・・でも、気持ちは良く分かるぞお〜        

西別川さんとひろしさんがメジャーを当てる。                   
「 45センチだ! 」「 あれえ、もっとあるかと思ったねえ・・ 」       
それは素晴らしい魚体だった。傷ひとつない完璧な体、朱色のレインボウバンドと黒点が
鮮やかに散りばめられた生きた宝石、体高のあるひれの大きいネイティブレインボウだ。

西別川のレインボウ、まさにここにあり。                     

川から上がって来たムラサさんとみんなが歓喜の握手。全員酔ってしまうような気分だ。
魚を弱らせないうちにムラサさんがリリースする。巨大なレインボウは回復するまでしば
らく時間がかかったが、ふと正気に戻りゆったりと川に消えていった。次に会う時は50
センチオーバーになっている事だろう。ひそかに来年はオレの竿に来るんだぞと言ってお
いた事は誰も知らない。ムラサさんは「いっやあ・・会心の釣りでしたよ・・」と満面の
笑顔だ。                                    

これが今回のハイライトである事はもはや明らかで、その後の釣りはもうクールダウンの
セレモニーのようなものだった。道草さんに惜しいアタリがあり、私が深みで沈したりと
色々あったが、時間になって納竿した5人の頭の中は45センチのレインボウでいっぱい
だった。幸せな気分で牧場を歩き、車に戻った。                  

結局、この魚が大物賞、体長賞の二冠をしとめたのだった。