大川無惨
昨年の水害で痛んだ大川での釣り。結果も無惨。
大川無惨
5月3日、今年初めての大川行き。ダムの駐車場でNOBEさんとちぇるいさんが待
っている。昨年の余笹川水害の時、このダムの水がオーバーフローしたという。大
川の被害はどんなものなのか?果たして釣りが出来る程回復しているのだろうか?
期待と不安がいり混じった釣行だったが、ダムの駐車場で二人と話している内に、
通り過ぎる車の数が半端な数じゃないのだ。これだけの車が先行するのだったら午
後から釣りに行こうよ、という事になって、ちぇるぃさんの車に同乗して山を降り
た。何カ所か下見を兼ねて回り、結局食事をしただけで終わってしまったが、後か
ら考えればあの時に行っておいた方が良かったのかもしれない。
食事をして、一休みをして大川の車止めに着いたのが2時半ころだった。ゲートの
周辺は車がいっぱいで止めるところがない。右の林道に入って空いているところに
車を止めて身支度をはじめる。すぐ近くに止まっていた車の持ち主二人が帰ってき
て黙々と着替えている。どうも釣れた顔ではない。不安がよぎる。
崖を降りて川を渡り、林道に出て上流へひたすら歩く。この近くではおそらく釣り
にならない。二つ目の橋まで歩く。何とテントを張ってキャンプしている人たちが
いる。ここまで荷物を担いできたと言うことで、何というかすごいものだなあと感
心してしまった。
橋の上流から入渓。河原が浮き石で歩きにくい。これも水害のせいだろう。水量は
申し分ないのだが河原の状態を含めて落ち着きが無くなっている。いたるところで
崖が崩れていて、水害のひどさを思わせる。道がすっかり土砂で埋まってしまって
いる場所もあり、このまま道路は復旧しないような気がしてしまう。
魚の影はない。走る影もなく、したがって釣れるような気もしない。今まで通って
いた川とは思えないような荒れた川になってしまった。こんなにも姿を変えてしま
う水害の怖さをまざまざと思い知らされた。
釣り初めて1時間、やっと私のロッドを振るわせて岩魚が釣れた。18センチくら
いのかわいい岩魚だ。今日は釣れないかも知れないとボウズを覚悟したあとだった
ので嬉しかった。NOBEさんに写真を撮ってもらいニッコリ。
その上流でNOBEさんがきれいなヤマメを釣った。堰堤の上の淵でライズしていたの
だそうだ。ライズしていたと聞いて驚いた。今日はヤマメがライズするような日で
は無いと思いこんでいたので、ライズを探そうなどとは思いもしなかったのだ。
ちぇるぃさんはどんどん先を行くがアタリが無いとぼやいている。
山が至るところで崩れている。崩壊して巨木が根こそぎ横倒しになっている場所を
見ると胸が痛む。自然の力の凶暴さを目の当たりにする。今にも岩が崩れてきそう
な気がしてつい早足になる。オフロードバイクが通りかかるが、崩れた山の端の岩
を避けながらバイクを押している。この道をバイクで走るのは無謀だ。もちろん知
らないで来ているのだろうが、引き返す勇気も欲しい。
暗くなってきたが、3人で大きな淵を見て驚いた。魚が群れている。この場所でウ
は有り得ないのでヤマメか岩魚だ。息をひそめてNOBEさんがフライを投げる。何
度も投げるのだが反応がない。続いて私が投げる。これまた寄ってはくるのだが、
無視された。
今度は上流の流れ込みのところにそっと近寄ってエルクヘアカディスを投げる。と
出た!小さな飛沫が上がり、合わせは空振り!・・・・・「あああ〜〜〜」と崩れ
落ちる。遠くで二人が大笑い。「惜しかったね〜〜」だって。
さあ、暗くなってなってきた。急いで帰ろうと歩き出したのはいいが、これがまた
遠いのだ。歩いても歩いても、気持ちだけが焦ってしまう。どんどん暗くなるのが
分かるだけに必死に歩く。もう3人とも会話する余裕すら無くなってしまった。
やっと橋のところにきた。キャンプしている人達がギョッとしたような顔でこちら
を見る。ランタンの明かりの中にそんな顔が見えて笑ってしまった。それは驚くだ
ろう。ライトも持たず真っ暗な道を3人の男が必死な顔で歩いているのだから。
そこから先が大変だった。もうほうとんど見えない。カンで道に落ちている岩をさ
けながら、川に落ちないように歩く。やけにこの1キロが長く感じた。暗闇の中、
道の上を集中して見分けながら慎重に素早く歩く。人間の五感というのはこうなる
と冴えてくるらしい。
マタギの人は夜の山の中を歩くと聞いて、すごいなあと思った事はあるが、こうし
て自分で歩いてみると、それがどんなにすごい事なのか良く分かる。とても人間技
ではない。ゲートが見えた時は心底ほっとした。ゲートの近くにはテントを張って
キャンプしている人達が大勢いる。その人達がまたしてもギョッとしているのを感
じながら車に到着。車が見えた時は誰からともなく歓声が上がった。
いやあ、NOBEさん、ちぇるぃさんお疲れさまでした。私があんなに粘らなければ
もっと明るいうちに帰れたのにね・・・申し訳ありませんでした。