遠野で岩魚を釣る


岩手の遠野で岩魚を釣ったが地震にも遭遇した。


5月31日(土)遠野の風の丘で目の前に広がる雄大な風景を眺めていた。東北地
方特有のなだらかな山に囲まれて田園が広がり、田の畦からは野焼きの煙がまるで
狼煙のように立ち上がっている。天気予報通りにポツポツと雨が落ちてきた。ここ
で藪澤賢治さん、健さん、高橋さんと待ち合わせていた。約束時間になって携帯に
電話するとすでに集まっているとのこと。すぐに合流し久しぶりの挨拶を交わす。

降り出した雨の中を遠野市街に入り、ショッピングセンターの駐車場に車を止めて
昼食にした。3人はラーメンセット、私は生姜焼きセットを食べる。窓の外は雨が
徐々に強くなっていた。釣りの話もこの天気ではなかなか盛り上がらない。それで
も私の強い希望で藪澤さんお勧めの川に行くことになった。          

車は伝承園に停め、身支度をして藪澤さんの車で全員が移動する。目指す琴畑川は
豊富な流量で、上空が開けているテンカラ向きの川だった。橋の上下に分かれて入
渓した。私は健さんと下流に入った。健さんと釣りをするのは初めてなので興味津
々だったが、健さんはじつに手慣れたフライフィッシングをする。ボサの多いとこ
ろでも果敢にロッドを操り、後ろにフライを引っかける事がない。見ていてじつに
綺麗なキャストをする。フライはNOBEさんにもらったものだそうな。     

渓相は申し分なかった。瀬と落ち込みが繰り返し、淵は青々と水をたたえ、どこに
でも魚がいるようで全てがポイントに見えた。ここでは1時間半の時間が与えられ
ていたのだがあっという間に時間が過ぎていった。しかし、こんな素晴らしい渓相
にもかかわらず、まったく魚の影を見なかった。普通は二度三度走る影を見るもの
なのだが、この川に限ってはまったく見られなかった。            

とある小さい落ち込みで右側に木の枝が水面近くまで落ちている場所があった。ま
ったく、ああいう場所に毛針を引っかけるんだよなあ・・などと思いつつ、毛針が
そこに流れて行き、枝に掛からないようにピックアップしようとした瞬間に水面が
割れた。派手な水しぶきを上げて大きな魚がライズし、瞬間の合わせに竿先がしな
る。ロングラインがぐいぐいと引っ張られてなかなか寄ってこない。ラインをつか
んで強引に引き寄せると、丸々太った岩魚だった。メジャーをい当てると25セン
チだった。やっと出た満足の型の写真を撮って、大満足の心地よさに顔がゆるむ。

すぐに集合時間になってしまい、竿をたたむのもそこそこに健さんと二人で道を急
いだ。藪澤さんと高橋さんはすでに戻ってきていて、結果はおでこだったようだ。
伝承園に戻り、それぞれの車に乗り、今日の宿泊場所「民宿:わらべ」に向かう。
雨の中、釣りをつき合ってくれた高橋さんとはここでお別れとなった。3台の車は
山の中へ、山の中へと進み、雨は徐々に激しさを増してきた。台風の前の雨雲が徐
々にその厚さを増して、周辺も暗くなってきた。               

わらべの駐車場に車を停め、すぐ裏の因縁の淵に行く。ここは前回来たときに多量
のライズがあったにもかかわらず、誰もそのライズを取れなかったという曰わく付
きの淵なのだ。早速毛針を振ったのだが・・・雨が急に激しさを増し、水面が泡立
つようになってしまったので釣りは断念せざるを得なかった。この雨では釣りにな
らないとばかり宿に逃げ込み、軒下で着替えをした。一端釣り支度を溶くと不思議
な事に釣りをする気持ちもすっかり無くなってしまうようだ。夕食までの時間、部
屋でまったりと過ごしていた。                       

夕食は豪華な山菜料理が並んだ。岩魚の炭火焼き、山菜の天ぷら、手打ち蕎麦、甘
味噌おでん、蕗の釘煮、ウドの酢みそ和え、ナラタケの酢漬け、カノシタの煮付け
、ご飯、みそ汁・・・素晴らしいごちそうだった。夕食を食べているときに地震が
あった。長い揺れで震度3くらいだっただろうか。先日大きな地震があって地盤が
ゆるんでいるはずなので、このくらいの震度でも土砂崩れが心配だ。まして、今日
は大雨が降っている。そんな夕食時に遅れていたPONTAさんがやって来て、一緒
に食べる事が出来たので良かった。今日はこれからサッカーの日韓戦があるので、
そうゆっくり食べている訳にはいかないのだ。急いで食べて薪ストーブのある広間
に急ぐ。テレビが広間にしかないからだ。                  

PONTAさんが差し入れてくれたつまみに舌鼓を打ちながら日韓戦を観戦する。まあ
いつものように盛り上がりに欠ける試合で、最後の最後にアンジョンファンに決めら
れて負けた。思い通りにならないのが世の中の常・・・仕方のないことだ。    

朝方、山鳴りがして直後にグラッと来た。地震だ・・・布団の中で身構えるが、その
後は何ともなかった。起き出して裏の川で毛針を振る。昨夜の大雨で10センチくら
い増水しており、赤茶色に濁っている。藪澤さんが「おかしいなあ・・あのくらいの
雨で濁る川じゃないはずなんだけど・・・」とつぶやく。毛針には何の反応も無かっ
た。宿の主人が朝食時に言っていた。「たぶん上の堰堤のヘドロがしみ出しているの
だと思うよ。地震でヒビが入ったんじゃないかな。怖いよね、あれが壊れたらこの辺
全部流されちゃうしねぇ」                          

満腹になった体で身支度をしてPONTAさんの車で釣り場に向かう。話題の堰堤の下、
前回私が入った川だ。橋のたもとに車を停めて川を見る。赤茶色に濁った水がドウド
ウとながれている。川底の砂も石も赤茶色に染まっている。前回は流れている水が見
えないくらい透明で澄み切った水が流れていたのに・・・真っ白い川は深さが分から
ないくらい透明な流れだったのに・・・                    

4人で交互に釣り上がる。魚の影は無い。当たりもない。しばらくして健さんのフラ
イにアタックがあったが、食いは浅かった。私の毛針には何の反応もない。とある淵
でユラユラと漂う岩魚の姿を発見した。そのすぐ横を健さんとPONTAさんが歩いてい
たが、岩魚はピクリとも動かない。毛針を振るが、何度ながしても見向きもしない。
魚がいても口を使わないのだ。昨夜来の地震で魚たちもナーバスになっているのか、
それとも満腹なのか。いずれにしても魚が釣れる気配は無かった。        

結局4人で3時間やったのだが釣果ゼロに終わった。地震の余波が釣りにも影響を与
えたのだろうか。釣れない言い訳に、ついに地震まで加わってきた。そんな厳しい状
況の中、案内してくれた藪沢賢治さん、健さん、PONTAさんに感謝したい。    

次回は爆釣といきましょう。                         



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