西別川へ行く5
最後の釣りはムラサポイントで締めくくった。
中西別のムラサポイントに着いた。お墓の横に車を停め、ゆっくりと着替え集中力
を高める。ここからが勝負だ。一人で西別川に入るのも初めてだし、ましてや最下
流のポイントだ。何があるか分からない、何かあっても助けてくれる人はいない。
お墓の横でこんな事を考えるのは先行きに不安を残すので、努めて明るく考える。
ここにはあの45センチを超えるニジがいるんだ。そいつに会ってやろうじゃない
か。よしんば釣れなくても姿を拝むことくらいは出来るだろう。
牧草地を突っ切り渓畔林に突入する。踏みあとを伝って川に出る。昨日と同じ流れ
がそこにあった。今は日も高く暖かい。昨日よりもずっと入りやすく感じる。二回
目という余裕からくるものなのだろう。川に腰まで浸かりルアーを投げる。しかし
昨日ほど魚の活性が高くない。この好天が災いしているのか?それともルアーが悪
いのか?ラパラのレモンイエローに変えて当たりが出てきた。立て続けに3尾のア
メマスが水面をバシャバシャいわせた。
きのう47センチの【ピー】を釣ったポイントはルアーを根がかりさせておシャカ
となり、42センチを釣った場所は音沙汰無し。日によってこうも変わるものか。
ところがその後の大きなカーブでそいつが出た。流れの向こう側の巻き返しにラパ
ラを投げてゆっくりリーリングしていると、突然ガン!というショックが手に伝わ
った。思い切りあおった竿先で黒い物体が水面を躍り上がった。「ニジだ!」反射
的に竿先を下げて押さえ込もうとするが、そいつは2度3度と水面の上を跳躍する
。「ここを我慢だ」と必死で押さえると今度は潜って上流と下流を往復する。竿は
曲がったままでやっとの思いでリールを巻くとバシャバシャ抵抗しながら明らかに
30オーバーのニジが上がってきた。空気を吸わせておとなしくさせてやっと喜び
が湧いてきた。「やったぁ・・・ニジだよぉ」
流れに浮かせて写真を撮り、持ち上げてセルフポートレートを撮る。自分でもいい
顔をしてるだろうなと思いながら魚を流れに帰した。狙ったポイントで狙った魚を
釣るのは実に快感だ。そう、ここはかつてムラサさんが45センチのの巨大なニジ
マスを釣ったのと同じ場所だったのだ。ここで出なければ多分今回はニジに縁が無
いのだろうと思って投じた一投だった。じつに嬉しい。
その後も何尾ものアメマスが竿先を楽しませてくれたが、型が出ず、私にとってク
ールダウンの釣りになった。暖かい日差しの中で信じられないような柔らかい流れ
に漂いながら、上流へ飛び去る巨大な鳥を見たり、巨大なガガンボを見つけたりし
ていた。心が解放されると回りの景色からいろいろなものが見えてくる。西別川に
来て初めて味わう至福の時間だった。
何だかあっという間に脱渓点に来てしまった。楽しい時間はあっという間に過ぎて
しまう。昨日と同じ道をたどり、車に戻る。濡れたウエーダーを脱ぎ、日に当てて
干す。これで釣りが終わったと思うとなんだか寂しい気もするが、これ以上は気力
が湧かないような気がする。一人だがOLMを全うしたような気分だった。着替えて
車に乗り走り出すと、車の正面に7〜8頭のエゾ鹿を発見。林道に並んでこちらを
見ている。ゆっくり車を近づけるが逃げない。じっと丸い目でこちらを見ている。
10メートルほどの至近距離に来たときにやっと横の渓畔林に逃げ込んだ。なんだ
か挨拶をされたような不思議な感じがした。
車は「かつら」に向かっている。一人になってしまったがOLMの昼食は「かつら」
で食べるのが決まりだ。この暗黙のルールは守りたい。1時を過ぎた頃「かつら」
に到着。なんとそこにはハミングウェイさん、ひろしさん、KON-chanがいた。
宿で朝食を食べてから観山橋の下に入って3人そろってボーズを喰らったと笑って
いた。これから知床に向かうのだとのこと。「かつら」でメンバーに会えると思っ
ていなかったので嬉しかった。私は牡蠣フライを注文した。知床に向かう3人を見
送り、ゆっくりと牡蠣フライを食べながら、私にとってのOLMの終わりを噛みしめ
ていた。
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