瀬音の森日記 152
秩父ヤマメの採卵
2000. 10. 22
10月22日(日)朝9時半。車は武甲山のふもとを生川(うぶかわ)上流に向か
って走っていた。この川の源流近くの武甲鱒釣り場の中に荒川水系渓流保存会で借
りている養魚池があり、そこで今日は採卵作業があるのだ。養魚池池は2つあり、
秩父ヤマメと秩父イワナが飼育されている。
漁協の他産魚無差別放流に対し、秩父には秩父のヤマメやイワナを放流しようと始
まった荒川水系渓流保存会の活動だが、今日は秩父ヤマメの採卵の日なのだ。10
時には10人の会員が集まり、手分けして作業が進む。ヤマメ池の魚の捕獲とオス
メスの選別作業。さらにメスの成熟度選別は今日採卵出来る魚かどうかを見極める
作業だ。
イワナ池では小型の個体を捕獲し、オス1に対しメス2のペアを作り、上流の川に
作った産卵床に放流する作業。産卵床は小さなプールを4段作り、身を隠す岩を配
し、中央は砂で産卵しやすい深さに作った場所だ。これは初めての試みなのだが、
自然河川で上手く産卵してくれれば良いのだが、どういう結果になるか興味深い。
エンビパイプを使ってのヘドロの除去作業はパイプが詰まっていて上手くできなか
った。ヤマメ池の選別が終わり、いよいよ採卵作業に入る。ポリペールには大量の
生理食塩水。ベビーバスには麻酔の入った水が張られている。水槽には選別された
採卵用ヤマメのメスが入っている。以下、採卵の手順を書く。
・メスのヤマメをベビーバスの麻酔液に浸けて眠らせる。あまり強く眠らせると卵
まで寝てしまい受精が上手く行かなくなることがあるので注意する。
・寝たヤマメの水を乾いたタオルでふき取る。
・水気をふき取ったヤマメを採卵台に乗せ、腹を押して卵を絞り出す。卵は生理食
塩水の中に置いたザルの中にためられる。黄色いビーズのような綺麗な卵だ。
・ある程度卵が溜まったらボールにあけてゴミを除く。
・麻酔液にオスヤマメを入れて眠らせる。
・寝たオスヤマメの水気を乾いたタオルでふき取る。
・ボールの卵にオスヤマメの腹を絞って精子をかける。
・羽根箒でゆっくりと撹拌する。
・水道の水(沢から引いた水)をボールの縁からゆっくりと入れて撹拌する。この
瞬間に卵が受精する。
・羽根箒でゆっくりと撹拌してから水を張った網トレーに卵を広げる。
・卵が重ならないように網トレーの卵を上を均一にならす。
この網トレーの上で卵は冬を越し、発眼卵となり、孵化し、稚魚となる。この日、2
万を越える秩父ヤマメの卵が採卵された。今年は採卵できる卵の量が多い。11月に
は秩父イワナの採卵が待っている。
瀬音の森の活動が忙しくなり、保存会の活動になかなか参加出来なくなってしまって
いるが、秩父イワナ保護の活動などは本来保存会を中心にやるべき活動だと思うので
、保存会の活動も今後ますます重要になってくる。地元の若い力を集めて、この活動
を継続し、今後の秩父イワナ保護活動につながれば良いと思う。
産卵床の前に勢揃いして集合写真を撮る。箱庭の池のような産卵床だが、ここには2
つがいの秩父イワナがいる。この川で秩父イワナが生まれ、再生産して定着してくれ
れば嬉しい。11月の採卵がうまくいって秩父イワナが稚魚に育ってくれればそれも
嬉しい。本来なら人の手によらず、自然に再生産出来る環境を守る事が大切だという
事は分かっている。
源流は放流のない天然イワナの川として保護されるべきだろう。そして、その下流の
釣りが出来る場所にはオレンジ色の鮮やかな秩父イワナがいて欲しい。本来いるべき
魚がそこにいること。それが山里の自然な姿だと思う。我々が望んでいるのも、そん
な山里の渓流なのだ。
さて秩父イワナの採卵はうまくいくか・・・あとはまた明日から。