瀬音の森日記 187
芦生の森を見に行く
2001. 5. 19
5月19日(土)東京駅朝7時、「のぞみ号」は静かにホームを滑り出した。隣の席
には吉川さんが座っている。向かうのは京都。これから京都郊外、美山にある京大演
習林「芦生の森」を見に行くのだ。以前から見たい見たいと思っていたのだが、なか
なか行く機会がなかった。今回、大阪のわっちゃんの呼びかけで、美山のNobuさんの
協力を得て見学会が実現することになったのだ。
のぞみの京都着は9時15分。八条口の新幹線乗り場前のタクシー乗り場でわっちゃ
んと待ち合わせている。待ち合わせ時間に少し遅れたが、わっちゃんと会えてほっと
する。車に乗り込んですぐに出発、一路美山に向かう。途中のコンビニで水と食料の
買い出し。山歩きをするのだから、それなりの準備をする。
京都市内を抜け周山街道へと入る。ここで思わず声が出る。「うわあ、台スギ施業だ
あ!」畑にスギが植えてあるのだが、これは台スギ施業という珍しいスギの仕立て方
なのだ。スギの台木を地上60センチくらいで伐採し、そこから崩芽更新させて何本
かの細くすらりとした材を育てるという、京都ならではのスギの仕立て方なのだ。
あわてて車を停めてもらい写真を撮りまくる。そして、さらに走ると周山街道の面目
躍如たる「北山スギ」の造林地に入る。ここでも車を停めてもらって写真を撮る。こ
の素晴らしい景色は人工林の極地ともいえる美しさだ。密植してある量が半端ではな
い。本当にわずかな葉だけを付けて、スギの生長を押さえ、正目で節のない目の細か
い磨き丸太材を生産している。林業で生計をたてられる日本でも数少ない優良林業地
なのだ。一度見たかった「北山スギ」の林は目の前に広がっている。
道草をして遅くなってしまった。途中で空耳さんと合流し、Nobuさんの待つ美山の待
ち合わせ場所には1時間近くも遅れてしまった。Nobuさんと逢い、挨拶をする。目の
前には藁葺き屋根の民家が何軒も建っていて風致保存地区となっている素晴らしい景
色が展開している。見学者もたくさんいる。この風致保存地区だけでなく美山町は山
が美しい。山と田畑と民家そして川のバランスがとても美しい景色を作り出している
。そして何より驚くのは、ゴミがないのだ。道にも民家の庭にもゴミらしきものが見
あたらない。この町を見るだけでも来る価値があったように思う。
12時「芦生の森」入り口に到着、ここでNobuさんとはお別れ。4人で身支度をする
。駐車場には大型バスも止まっていて団体が沢山入っているらしい。バードウオッチ
ングやネイチャーウオッチングのクラブのようだ。さすがに人気のある場所らしい。
大正時代の洋館風の演習林事務所を見てトロッコ道に入る。ちょうど秩父演習林の入
川森林軌道のような感じだ。川の対岸に白いホウノキの花が見える。近ければ甘い香
りが漂っているところだ。枕木でちょっと歩きにくいトロッコ道は川沿いをどこまで
も続いている。道端には小さな花が沢山咲いていて、写真を撮りながら歩くので、な
かなか思うように進まない。
「灰野」という40年前の集落跡地があった。案内看板に書いてあった文章を抜粋す
る。『中略・・・・ 昭和35年に灰野が廃村となった時には由良川最上流の集落で
あった。最盛期には八軒、旅人相手の宿もあって、今も芦生の集落に残っている松上
げや盆踊りが盛大に行われていた。人によっては山仕事の他、ヤマメを釣って売り、
冬には狩猟を行って生活していた。』小さな祠がきれいに手入れされていて、そこだ
け人々の気配が満ちていた。トチノキの巨木が全体を覆うように枝を広げていた。
由良川で釣りをする人の姿がちらほらと木々の間から見え隠れする。この川にはフラ
イフィッシャーがよく似合う。河原が開けていてロッドも振りやすそうだ。こんなき
れいな川でヤマメが釣れたら最高だろうな・・と思いながら川を見ていた。とにかく
水の透明度が素晴らしい。豊かな森には豊かな水がある。この水量の豊かさに森の奥
深さを思う。
続く