瀬音の森日記 188


芦生の森を見に行く その2



2001. 5. 19


日射しの強い日だったが、歩いているところはほとんど木の下だったので快適なトレ
ッキングだった。シジュウカラやウグイスのさえずりや瀬音を聞きながら木陰の道を
歩くのは贅沢な時間だなあとしみじみと感じていた。              

ミズナラの虫嬰(ちゅうえい)を見つけた。スモモ程の大きさで一部がピンク色にな
っていて、ちょっと見た目には果実にしか見えない。ミズナラに果実が成るはずもな
く、確かに虫嬰である。本当はいけないのだが、今日は観察会ということで、虫嬰を
ナイフで割ってみた。梨の断面のような切り口を良く見ると1mmにも満たないよう
な小さな虫がビッシリと見える。虫嬰は虫のゆりかごであり団地でもあるのだ。  

カシやシイの多さに今更ながら驚いていた。見渡す山の中腹に沢山見える黄色っぽい
木はすべてシイの木である。関東ではこういう感じの山は少なく、照葉樹林帯のまっ
ただ中にいるのだということを実感させられた。                

造林小屋だろうか、何かの宿舎跡にきた。大きなメタセコイヤの木が枝を四方に広げ
ている。小屋の前の広場にケヤキが植えてあった。3アールくらいの広さにびっしり
と植えてあるケヤキは造林実験林分なのだろう。驚いた事が二つ。一つはケヤキの幹
にビッシリと地位類が生えていて、まるで東北のブナ林のようになっていたこと。も
う一つは、太さがあまりにも違うこと。太い木は25cmくらいに育っているのだが、
細い木は3cmあるかないかという状態だった。同時に植えたのにこの違い。広葉樹 
の造林の難しさをここでも感じさせられた。均一に育てるには相当の手間がかかりそ
うだが、かといって放っておいたらこんなに差が出来てしまい、数本だけが光を独占
してしまう結果になる。どうも、思うようには育ってくれないようだ。      

3時になったので休憩する。河原に降りて川の流れを見ながらお弁当を広げる。渓畔
林は関東のそれと変わらない。目の前の淵では時折魚の影が走る。わっちゃんの話だ
とほとんどがカワムツとのこと。私はカワムツを見たことがないので分からないのだ
が、体側に筋の入ったいかつい顔の魚で、なんだか嫌な匂いがするのだそうだ。関東
のウグイのように嫌われている魚のようだ。流れの中にはどじょうも見える。   

斜面にはカモシカに喰われたのだろうか、シダがすっぱりと上が切れて無くなってい
る株がたくさんあった。カモシカも今の季節は食べ物に困らないと見えて、ずいぶん
と大ざっぱな喰い方をしている。生えている場所で味も違うのだろうか、この周辺の
シダだけが喰われていた。                          

さて、来た道を折り返して帰る。足は自然に速くなるのだが、時折写真を撮っている
と、ついつい遅れてしまい、途中で待ってもらうようになる。申し訳ないことだ。光
線が真上から斜めに変わってきている。スギ林の間から差し込む光線が午後の柔らか
い景色を作り出している。                          

サルナシやオニグルミをたくさん見かけた。ドングリも多いだろうし、秋には動物達
もたくさん集まりそうな道である。造林小屋に怖々入り込んだり、集落跡でトチノキ
の巨木で記念写真を撮ったりと楽しみながらトロッコ道の入り口にたどり着いたのは
5時30分のことだった。演習林事務所は大正時代の洋館作り。ドイツトウヒの大木
とコナラ、クマノミズキの大木に囲まれている。木の大きさを見てもらうために3人
を入れて記念写真を撮る。                          

入り口近くに樹木園があるのを発見。次回はぜひ見学したい場所だ。入り口の案内図
を4人で見ていてビックリ。我々が今日歩いた行程は全体の3分の1にも満たない距
離だった。実際にはまだまだ奥が深く、桃源郷のようと言われている核心部にはまだ
まだほど遠い距離だったのだ。半日で良い思いが出来るほど「芦生の森」(京大演習
林)は甘くなかった・・・・ふぅ。                      

周山街道を通って京都市内に戻り、ファミレスで夕食を食べる。ビールを飲みながら
今日のことを語り合う。わっちゃん、空耳さん、吉川さん本当にありがとうございま
した。次回はテント泊のつもりで来ないと核心部まで行けないね、と確認し合ったの
は言うまでもない。良い時期に良い森を見ることが出来て大満足の1日だった。  

何と言っても京都は奥が深い・・・あとはまた明日から。