瀬音の森日記 189
都ホテル裏山の公園
2001. 5. 20
京都の市内東山地区にある都ホテルの裏にはバードウオッチング用の散策路があると
いう。本でそんな情報を仕入れていたので、行ってみることにした。何とも蒸し暑い
日だったので、観光客の多いところに行きたくなかったという事もあった。カミさん
と涼しいラウンジで一休みしてからおもむろに腰を上げた。
エレベーターで7階に行く。ここから裏山に登る道が出来ているのだ。道は巨木の日
影で思った以上に涼しく、快適だった。何といっても良かったのは、京大理学部監修
による樹木版が主な木についていたこと。図らずも樹木の勉強をすることができた。
そして、関東ではなかなか見られない樹木を見ることが出来たのもここでの大きな収
穫だった。
白い花が盛りで、甘い香りを振りまいていたバラ科のカナメモチ(アカメモチ)。葉
柄の赤さが妖しい雰囲気を醸し出している。モチノキ科のソヨゴ、ハイノキ科のクロ
バイは初見。ツツジ科のシャシャンボ、ウコギ科のカクレミノも初めて見る樹木だ。
名前は聞いていたがこうして見ると、特別な樹木でないことが良く分かる。
関東のクヌギと棲み分けているというブナ科のアベマキを見つけた。確かにアベマキ
はクヌギよりも幹のコルク質が厚く、葉が大きい。でも、ちょっと見るだけでは記憶
の中のクヌギと区別はつかない。棲み分けている訳だから一緒に並んで生えているは
ずもなく、比べる機会も無いだろうし、こういう場所で見ることが出来てラッキーだ
ったといえる。樹木版が付いていなければ分からなかったところだ。
この散策路は一周1.5キロの山道で、しっかりした道になっていて誰でも歩きやす
く作られている。都ホテルという場所柄か、すれ違うのも日本人よりも外国人の方が
多かったように思う。ネイチャートレッキングの盛んな国とそうでない国では、こう
いった施設の利用状況が変わってくるのだろう。外国人のカップルはゆったりと廻り
を見ながら歩いているのに対して、日本人の家族連れはそそくさと競争するように早
足で追い抜いていった。何て忙しいことだ・・・
シイやカシの巨木が多く、暗い林内は照葉樹林の典型的な表情を見せてくれる。硬い
枯れ葉は滑りやすく、以外と斜面が歩きにくい。眺望が開ける場所では、東山三十六
峰が折り重なるように目の前に現れた。山々の中腹に黄色く見える群落はすべてシイ
の若葉である。シイ・カシの多い照葉樹林帯のまっただ中に自分がいることを実感さ
せられた。
モチノキ科のタマミズキは幹を長く伸ばしてシイ・カシに負けないように必死に葉を
広げていた。クスノキ科のヤブニッケイを見つけた。枯れ枝を折り取って匂いをかぐ
とニッキの匂いがする。「シナモンと同じ匂いだあ〜」とカミさんが大喜び。思わぬ
発見が次々に出てくる。
120種を集めたというアジサイ園はまだ花には2週間以上も早いとのこと。硬い蕾
のアジサイを眺めながら、しばし「獅子脅し」の音を楽しむ。山の中の「獅子脅し」
とはまた風流なものが作られているものだ。「コ〜〜〜ン!」という音が一定の間隔
で山に響き渡る。
このシイ・カシの巨木の道を、その昔、野伏りや夜盗、新撰組や坂本龍馬や桂小五郎
が駆け抜けたのだと思うと、当時と変わらないであろう山の趣が何だか不思議な気が
してならない。硬い落ち葉の音を気にしながら、滑らないように、気配を殺して歩い
ていたであろう人のことを想像するのも京都ならではの楽しみかもしれない。
思いがけない京都の裏山・・・あとはまた明日から。