瀬音の森日記 219


演習林勉強会 2日目



2001. 11. 11


2日目の11日は朝から良い天気だった。遠くの山のカラマツが朝日を浴びて金色に
輝き、雨上がりの道路から湯気が立ち上っている。一日早くこの天気だったらとも思
うが、それも自然の中では仕方ないこと。朝食のカレーうどんでお腹を満たし、宿舎
の後かたづけと清掃をして今日最初の目的地「樹木園」に向かう。遠くに見える峰の
上が冠雪している。昨日の雨は山の上では雪だったようだ。長南さんの見るところで
はではちょうど標高1000メートルくらいから上だという。          

「樹木園」は演習林内に国道を建設する際にトンネルにして守った植生が豊かな場所
で、奥秩父の天然林のクライマックスを見ることが出来る数少ない場所の一つだ。ち
ょうど滝川の通称「ミグロの通らず」の上にあたる斜面に造られている。しっかりし
た歩道が作られているので歩きやすく、樹木板があるので秩父の樹木を覚えるにも最
適の場所と言える。ここで昨日見られなかったブナやメグスリノキを観察するのだ。

いきなり樹木園でキャンプしている人がいてビックリした。すごい人がいるものだ。
もちろんここはキャンプ禁止で、焚き火するなどとんでもないことだ。kazuyaさん
もあきれたように注意していた。                       

参加者はまずブナの巨木に感動する。モミやツガもすごい。昨日覚えたカエデもたく
さんある。ケヤキやサワグルミの巨木が空を覆い、オオモミジやメグスリノキが目を
楽しませてくれる。ミズメ、アサダ、ヤシャブシ、ハリギリ、日頃見かけない巨木が
次から次に出てくる。ちょうど最後の紅葉が盛りで、歩道には色とりどりの落ち葉が
重なり合うように落ちている。落ち葉を拾い上げながら樹木の話が出きるのもこの時
期の楽しみの一つだ。じっくり見たら何時間かかるだろうという場所を1時間で切り
上げる。じつに贅沢だ。                           

全員車で出会いの丘に移動する。今年の春ここで大勢の人の力を借りて河原に植樹を
した。その後どうなったか、今日はそれを見るのが目的なのだ。身支度をして斜面を
下る。昨日の雨で滑りやすくなっている斜面に足を取られる。kazuyaさんの解説を
聞きながら慎重に下り、沢を渡り、梯子を伝い、また沢を渡り、手作りの橋を渡って
植樹した河原に着く。                            

懐かしい河原には干からびたようなシオジが立っていた。新芽が出るたびに鹿に喰わ
れ、植えて時から少しも太れないまま枯れてしまったシオジ。山から土を運び、やっ
との思いで植えたものが、一枚の葉も出さずに枯れてしまったサワグルミ。かろうじ
て小さい芽が残っているのはケヤキだ。カツラも枯れてしまったものが多い。ポット
苗のものが生き残っているということは他の苗の客土が不足していたのだろうか。 

鹿の食害の話は聞いていた。鹿も生きるためには必死なのだろう。喰わないと言われ
ていたオオバアサガラの枝を削るようにかじった跡もあった。でも、植えたシオジが
喰われてしまったのは単純に鹿のせいだ。鹿さえいなければ青々と茂った若い林にな
っているはずだったのに。                          

これは渓畔林再生の実験だった。第1回戦は鹿の食害で幕を閉じた。では2回戦はど
う戦おうか・・が今日のテーマになった。喰われないように防御の手だてをする。喰
われないような大苗を植える。喰われないような樹種を植える。まだ、我々にだって
手は残っているのだ。鹿に挑戦状をたたきつけたい気分だ。           

河原を歩きながらkazuyaさんの話が続く。様々な意見が検討されたとのこと。我々
は専門家のお手伝いしかできない。来春再度挑戦する植樹がどういうものになるか分
からないが、渓畔林再生の厳しい現実を目の当たりにして再度モチベーションを高め
なければならない。もとよりそんな簡単な作業だとは思っていない。これから先が問
題なのだと思う。鹿が減ってくれれば問題ないのだが、それはない。鹿に負けない渓
畔林を作らなければならない。決意を新たに集合の写真を撮り、作業は終わった。 

橋を渡り、急斜面を直登して出会いの丘に戻る。小菅で鍛えたせいか、それほど登り
が苦にならない。出会いの丘広場に集合して来年の再会を約して解散した。    

来年の植樹を楽しみに・・・あとはまた明日から。