瀬音の森日記 301


源流部会、千丈の滝上ツアー



2003. 8. 2/3


8月2日(土)3日(日)の二日間、奥秩父源流真の沢、千丈の滝上ツアーに行った。
これは瀬音の森の源流部会の活動で、千丈の滝上の森林植生を観察し、チチブイワナの
生態を研究しようというものだった。以前、柳小屋までは登ったことがあったのだが、
千丈の滝には行けなかった。苔むした原生林をぜひ一度見てみたいものとツアーに参加
したのだが、もとより足に自信はなく、不安が一杯のスタートだった。       

演習林矢竹沢の駐車場に車を止め、山登りの支度をする。私は山登りに備えてスパイク
付き地下足袋を履いたのだが、これが失敗だった。山小屋一泊分の荷物を詰め込んだザ
ックを背負い、黙々と森林軌道を歩く。赤沢出会いに着いた時には汗びっしょりになっ
ていた。ここから急登し、入川との尾根まで一気に登って休憩になったのだが、背中か
ら流れる汗でズボンやパンツまでぐしょぐしょになってしまった。いやはや前途多難で
ある。昼食を摂らなければならないのだが食欲が無く、口の中が乾いている状態だ。持
参したキャラメルを食べてエネルギー補充する。                 

柳小屋まではアップダウンの連続で疲労が蓄積する。そのうちに左足の土踏まずが痛く
なってきた。どうやら地下足袋のスパイクが当たり、マメが出来たようだ。びっこを引
きながらみんなの後を追うのは大変だった。小休憩中に地下足袋を脱ぎ、マメに絆創膏
を貼り、靴下を厚いものに替えたら少し楽になった。               

柳小屋に着いた。休憩後、薪集めに出かける。川向こうの斜面に大きな立ち枯れの木が
あり、それを切って集めて一晩分の薪を作った。先発隊の関根さんが息子の大ちゃんと
戻ってきた。ビクには大きなチチブイワナが人数分確保されていて、さっそくクシを打
って焚き火にかざした。夕食は安谷さんが担当してくれた。私と石川さんは下流と上流
に別れて釣りに行ったのだが明暗がくっきり分かれた。私はかすりもしないボウズ、石
川さんはバラシ多数の5尾が釣果。う〜〜〜む、上流に行けば良かった。      

安谷さんが作ってくれた夕食は自家製野菜たっぷりスープとご飯。これに関根さんの変
わり味噌が加わり、それぞれ持参のつまみも加わり、にぎやかな夕食となった。自分で
担いできたビールを飲み、ウイスキーの封をを開ける。ほろ酔いのkazuyaさんが焚き火
場のすぐ上流でイワナを釣った。大ちゃんがカモシカの骨を1頭分見つけて大興奮して
いる。山の宴は暗くなるにつれて盛り上がり、焚き火の周りで会話が弾む。イワナはこ
んがりと飴色になり、骨酒用のお酒も準備万端。山の夜が更けていく。       


翌朝6時起床。青空の下で朝食のずりあげウドンを食べる。納豆入りは安谷さんのアイ
デアとのこと。しっかり食べて、長い長い1日のスタートとする。         

7時出発。目指すは千丈の滝。真の沢林道を黙々と登る。一汗かく頃にやっと尾根に出
る。この林道沿いには巨木が多く、目の保養になる。ヒメコマツ、ツガ、バラモミ、ク
ロベ、ヒノキ・・・どれもこれも素晴らしいのひと言だ。安谷さんがビデオを撮り始め
た。真の沢の植生を解説するビデオで、今年の演習林勉強会でみんなに見せるのだと言
う。きっと良い資料になるに違いない。                     

イヌブナ・スズタケ群落、サワグルミ・ミヤマクマワラビ群落、いずれも奥秩父ならで
はの植生群落が続く。目を奪われると足元がおろそかになる。ここで足を滑らせたら命
が危ない、と慎重に歩く。そして、歩くこと1時間半、木の間にゴウゴウという轟音が
聞こえてきた。「あれが千丈の滝ですよ」kazuyaさんの声に疲れ切った足が元気を取り
戻す。全長80mの大滝は木の間からチラチラとその白い姿を見せている。ここまでの
道のりが大変だっただけに、この滝を見たときは感動した。            

道はそのまま千丈の滝上に出た。明るい河原が突然目の前に開けたのにも感動した。今
まで、山の上の方を歩いていたとばかり思っていたのに、一気に河原に出たのだから、
正直驚き以外の何物でもなかった。「あそこは別世界なんですよ」と言っていたkazuya
さんの言葉を、今さらながら「なるほど・・」と頷くしかなかった。        

ひと休みして釣りが始まった。私の一投目にイワナが出たのだが、あまりの突然さに外
してしまい、みんなにブーイングをもらった。最初に釣ったのは石川さん。立派なチチ
ブイワナだった。kazuyaさんも釣った。石川さんからフライを譲ってもらい、私も綺麗
なチチブイワナを釣った。石川さんのフライは私のフライの3倍もある巨大なもので、
源流の釣りはこれでなければダメとのこと。目から鱗が落ちる思いだった。     

周囲は全てがコケで覆われており、倒木も河原の石もみんな緑色をしている。流れはあ
くまで透明でジンクリア。まるで水が無いかのような錯覚を起こす。うっかり踏み込ん
だ足が以外に深くまで潜り、あわてる場面も多かった。こんな天国のような川でイワナ
を釣るなんて、何だか申し訳ないような気分だった。休憩したサワラ林はコケがふかふ
かの絨毯のようで気持ちよかった。対岸のコケ原の上をリスが下流に向かって一目散に
駆け抜けていったのも、ごく当たり前の出来事のように感じた。          

サワラ林の外れに安谷さんの案内で巨大なヒノキを見に行った。そのヒノキは、見上げ
る高台に巨大な根を張って岩をつかみ、天空にそびえ立ち、神々しささえ感じさせる姿
だった。思わず両手を合わせてしまった。こういう木を見ていると巨木信仰があること
も素直に理解できる。周囲の天然カラマツも巨大で、充分巨木信仰の対象となりうる木
ばかりだった。ここの樹木は本当にすごい。                   

さらに釣り上がるが、帰る時間を考えて2段の滝で納竿とした。滝の前で集合して記念
写真を撮り、源流部会最終到達点とした。帰路を探す大変さ、旧登山道の危険さ、柳小
屋までの滑る林道を歩く大変さ、柳小屋から帰る道での膝の痛さ、最後のラストスパー
ト、石川さんと行った温泉、自宅まで長かった運転・・・・じつに色々ありました。 

ちょっと自信になったかな・・・あとはまた明日から。