瀬音の森日記 340
東京大学 北海道演習林の見学
2004. 9. 4
9月4日(土)念願だった東京大学の北海道演習林を見学した。以前、テレビ番組で日
本一美しい森と紹介されていたので、是非一度見たかった森だ。参加者はkazuyaさん
、渡部さん、ハミングウェイさん、加藤さん、安谷さん、関根さん、フクロウさん、に
ゃんこさん、坪井さん、渓酔さん、新谷さん、こねこさん、kurooの13名だった。
旭川のハミングウェイさんの自宅を宿舎にしていた関係で、旭川から富良野までドライ
ブして演習林に入った。途中の美瑛や富良野の風景は北海道ならではの風景で、なだら
かに起伏する丘陵を様々な作物がパッチ状に作る模様がじつに美しかった。国道を走っ
ただけでも、その美しい景色を満喫することができた。待ち合わせの場所は麓郷の森に
ある森林資料館。ここで待ち合わせている会員の新谷さんと演習林係官の芝野さんと大
屋さんが待っていた。
山手線の内側面積の3倍もある広い演習林内は、大学のマイクロバスで移動する。全員
が乗り込んで、ドラマ「北の国から」のロケ地でもある「五郎さんの家」の前を通って
演習林の山に入って行った。到着したのは、ほぼ原生林となっている山腹の森。ここで
は樹木の特徴と生態を勉強した。トドマツやエゾマツ、アカエゾマツの違いを聞き、林
床のクマイザサ(九枚笹)とチシマザサの違いを聞き、この森の特徴である針葉樹と広
葉樹が混交する森を散策した。
1本のトドマツが横たわっていた。その倒木の上には苔が生え、針葉樹の幼樹が生えて
いた。倒木更新である。私は今まで倒木更新は倒木の栄養で幼樹が育つものと思ってい
たが、芝野さんの解説でそれが大きな間違いである事を教えられた。倒木の上に芽生え
るのは雪腐れ病を避ける為で、他よりも早く雪から顔を出すことが最大のメリットであ
るとのこと。そういえば、倒木だけでなく切り株にも幼樹が生えている。幼樹にとって
高い位置にあることが生き残りの条件なのだ。さらに、10センチほどの幼樹と思われ
たトドマツは25年ほどの樹齢であることが分かり2度ビックリ。こうしてじっと耐え
ている間に風などで上の木が倒れ、天井が開くと、一気に成長して林冠を形成する樹木
に育つのだそうだ。暗い林床にじっと耐えている膨大な数の幼樹が未来の森林を保証し
ている。
トドマツが根を張る下に小川が流れていたり、様々なキノコが顔を出していたり、クマ
ゲラが蟻を突きだした大きな穴を見たりしながら林内を散策しバスに戻った。次に向か
ったのは砂利を採石した跡地。ここは表層土壌が無く、火山灰土が露出した場所で、こ
こでトドマツなどの芽生えと成長を観察しているとのこと。まったく栄養のない土壌が
樹木の芽生えや定着に向いているということは、ここで初めて知った。栄養のある土壌
では菌類や草本との競争に負けてしまうからとのこと。説明を聞けば納得できるのだが
、今まではそういう考えはまったく浮かばなかった。現実に栄養のない土地で育ってい
るトドマツやエゾマツを目の当たりにして納得した。
ここで、説明を聞いていたにゃんこさんが蜂にさされた。「痛い!」と突然首を押さえ
てしゃがみ込み、うずくまってしまった。スズメバチか?と驚いたが、どうやらクマバ
チだったようだ。何かのひょぅしにぶつかって刺してしまったのだろう。すぐにバスか
ら救急箱を出してポイズンリムーバーで毒を吸い出し、私の持っていた抗ヒスタミン剤
の軟膏を塗った。その後、めまいやしびれが無いということでひとまず安心した。静か
な山間に突然大勢の人間が集まり、にぎやかに蜂の生息域に進入したのだろう。おどろ
いて反応してしまったのかもしれない。こういったインストラクト時には特に注意しな
ければいけない事だ。
次に向かったのは若いダケカンバの林だった。50年前の地はぎで自然に生えたダケカ
ンバの林。「地はぎ」または「地かき」とはブルドーザーなどで栄養のある表層の土壌
を一定の面積だけかき取り、栄養の無い土壌を露出させる方法。そこには樹木の種が飛
び、芽生え、同じ樹齢の樹木の林となる。見学したのはダケカンバの林になっていたが
様々な樹木が生えていて、たまたまダケカンバが早く成長しているのに過ぎないことは
林内を見れば良く分かった。裸地には草本も広葉樹も針葉樹も一斉に生えてくる。けし
て遷移の教科書に書いてあるように、まず草本が育ち、次に陽樹が育ち、最後に陰樹が
育つなんてことは無い。
きれいなダケカンバ林の横、ここで昼食となった。道路の日陰に座り込んで思い思いに
昼食を摂る。コンビニのおにぎりもこういう場所で食べると格別の味がする。周辺には
キノコも沢山あったようで、関根さんや新谷さんが沢山採ってきた。今夜の夕食のみそ
汁になりそうだ。
午後、最初に向かったのは火山灰地と岩盤の隙間から大量の地下水が噴き出している場
所だった。湧水はそのまま川となり演習林内を流れ下る。この川にも40センチくらい
のアメマスが遡上してくるとのこと。残念ながら演習林内の河川での渓流釣りは禁止さ
れているので、確認しようがない。ここで一休みして集合写真などを撮り、渓畔林をバ
スの車窓に眺めながら次の場所に向かった。この車窓の景色はまるで一編のドキュメン
タリー番組のようだった。次から次に展開する素晴らしい森の風景。ここをゆっくり歩
いたらどんなにか素晴らしいだろう。
移動の途中でダムの工事現場を通った。湛水試験をするたびに水漏れが起こり、いつま
でたっても完成しないダム工事だとのこと。こんな所にも税金の無駄使いが行われてい
る。「関係者以外立ち入り禁止」の看板は、この事実を知られたくないための処置と聞
いては開いた口もふさがらない。だいたい火山灰地の川にダムを作るなんてねえ・・・
ミズナラの優良木を見学した。優良木とは枝下が長く、太く真っ直ぐな木とのこと。広
葉樹であるミズナラなのに、この木は本当に太く、真っ直ぐで、枝がない。不自然なく
らい真っ直ぐなミズナラを見上げながら、不思議な気持ちで一杯だった。どろ亀先生も
お気に入りの木だったらしい。ドングリを沢山ひろったので、ハミングウェイさんの家
の庭に植えてみたい。果たして真っ直ぐなミズナラが生えるかどうか。
最後に、10年に一度総材積16%分の択抜を行う択抜林を見学した。森に入って択伐
木の説明を芝野さんから聞く。それぞれに伐る理由が違い、ある木は半分枯れていたり
、曲がっていたり、良い木の生長を阻害する木であったり、重なり合っていたりと様々
な切る理由があった。一本一本確認しながら選木するのも大変なことだ。
バスが山間を抜け、人家が見えてきたと思ったらすぐに出発地の森林資料館に到着した
。意外と近い所で見学していたことにビックリ。バスの運転をしてくれた大屋さんとは
ここでお別れ。本当にありがとうございました。芝野さんには引き続き資料館を案内し
て頂く。この資料館にはこの演習林内で伐採された樹木の見本が残されていて、貴重な
樹木を見ることが出来た。驚いたのは330年生のイチイ。これだけ太いイチイの木が
あったなんて・・・目が点になってしまいそうだった。「いったいこれでいくらになる
のだろう・・・」貧乏性の人間はついそんな事を考えてしまう。それほど素晴らしい木
だった。ここでは樹木を皮付きで製材し、本のようにして本棚に並べた展示が圧巻だっ
た。本当に様々な樹木が製材されていて、それぞれが目新しかった。こんな展示は是非
秩父演習林でもやって欲しいものだ。
全てを見終わって、資料館を出て、一日案内して頂いた芝野さんに感謝の挨拶をして帰
路についた。十勝岳が綺麗に噴煙を上げている姿を目に焼き付け、富良野の雄大な風景
の中を疾走し、十勝岳の麓にある「白銀温泉」に到着した。ここで一日の疲れを取り、
ゆっくりと休み、夜の宴会の為に鋭気を養った。
なんて充実した一日だったのだろう・・・あとはまた明日から。
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林分施業法の基本6原則(第11期試験研究計画による)
1)天然林の施業は対象森林が途中相であれば、物流生産量が最大となる極相林に向か
い、より早く動くよう施業し、極相林では、その内部において回転をより早めるよ
う施業する。
2)天然林施業は画一的でなく、森林を構成する林分ごとに将来に向かってその機能が
より発展するように施業する。
3)森林は常にうっぺいしておくことが理想であり、太陽エネルギーを最初に受ける上
層が最も生産能力が高まるように誘導し、しかも、散光を下層で吸収する復層林が
理想型である。
4)森林を構成する各生物系・非生物系の破壊と消滅を出来るだけミクロかつ弱度にと
どめるよう施業する。
5)天然林施業では、林木の遺伝子を考え、伐採する事によって望ましい遺伝子がより
発展し、好ましからざる遺伝子がより減少しまたは淘汰するよう施業する。
6)天然林の施業は地力を維持し、気象害、病虫獣害などへの抵抗力の高い健康林の造
成を目標とする。