面影画26


6月27日の面影画は鶴島道子さん




描いた人 鶴島 清さん 57歳 夫                         

 道子さんと清さんが知り合ったのは仙台の東北学院大学だった。大学でお互いを見初め、愛
を深め、25歳の時に結婚した。築館出身の清さんだったが、道子さんの家の事情をくみ、婿
入りすることに同意してくれた。                           
 道子さんは懐かしそうに言う「私より高田の事が大好きだったの・・・」        

 コーヒーとタバコが大好きだった清さん。道子さんがある時冗談に「ねえ、私とタバコのど
っちが好きなの?」と聞いたら「タバコだなあ・・」とすぐに返事が返ってきた。まあ、その
くらいタバコが好きな人だった。                           
 いつもニコニコしていて、周りをあたたかくする、空気のような人でもあった。     

  清さんは昼間は洋品店の店長で、夜はラーメン屋のマスターという二足のわらじを履いて
十五年間という長い間働いてきた。                          
 自分でやりたいと言って始めたラーメン屋で、ダシや麺にこだわったラーメンが売り物だっ
た。高田市役所近くの交差点にあった店は「鶴しま」という。お酒も出す店で、こちらでも 
「店長」とか「ツーさん」とか呼ばれて、多くの市民に親しまれていた。         

 洋品店は35年間やってきた。毎日8時に起き、洋品店で働く。夜はラーメン屋を営業し、
夜の12時が閉店。2時に寝て8時に起きる。睡眠時間6時間、これを十五年間続けて来た。
すごいことだ。                                   
 弱音は吐かず、やると決めたらやる人だった。                    
 青年会議所の活動もやっていたし、記憶力が良く、誰とでも話が出来る人だった。芯が強く
、こだわりを持った人で、好き嫌いははっきりする人だった。お店で「ラーメンがまずい!」
などという人がいると「もう、来なくていい!」と言うような人だった。         

 両親と一緒に暮らしていたが、道子さんとは仕事の時間が合わず、一緒にいる時間というも
のがほとんどなかった。「ママ、今年は旅行に行こうね・・」と話していた矢先にこの震災が
起きてしまった。                                  

 3月11日、道子さんは市役所にいて無事だった。                  
 一方、清さんは洋品店で片付けをしていた。先に来た地震で散乱した店をそのままにしてお
くことは店長として出来なかった。最後に見た店員は「店長、津波が来るから逃げましょう」
と言ったが、「分かってる、先に逃げ!」と言って店に残った。店員は皆無事だった。   

 まさか、あんな大きな津波が来るなんて誰も思っていなかった。            

 6月20日、陸前高田市主催の合同葬儀が行われ、埋葬も終わり、型通りの弔いは終わった
。道子さんは両親が待つ名古屋にこれから行く。清さんが大好きだった高田を離れなければな
らない。「いつか帰って来たいけど・・」と言ってテントを後にした。          

 あんないい人が、なぜこんな目に遭わなければならないのか・・。           
 理不尽な災害になすすべなく涙する人のなんと多い事か。               

 せめて、この面影画が少しでも道子さんのやすらぎになってくれれば嬉しい。      

 道子さんにおくる、大好きだったご主人の記録。                   
 清さんのご冥福をお祈り致します。                         




 6月27日の面影画は鶴島道子さん。                        

 津波で亡くなられたご主人を描かせていただいた。                  

 鶴島さんはいま名古屋にいる。6月20日に陸前高田市で合同慰霊祭があり、そこに参列す
る為に高田に来て、話を聞いて面影画に申し込みに来られた。              

 その場で絵を描く事は出来なかったが、取材だけはさせていただいた。慰霊祭、埋葬の後と
いう事だったので、淡々と話されていたが、最後に「本当にいい人で、これからという人だっ
たのに、何であの人が・・・」と、言葉に詰まり、後が声にならなかった。        

 心の中で折り合いをつけたつもりでも、何かきっかけがあればもろく崩れてしまう。それほ
ど喪失感は大きい。理不尽に最愛の人を奪ったのが天災だから、どこにもこの悲しさや怒りを
ぶつけられない。じっと耐えているが、悲しみはどんどん深くなる。           

 二枚の写真を預かった。親子で旅行に行き、ペンションに泊まった写真を元に絵を描かせて
頂いた。                                      

 この面影画が道子さんに少しでも力を与えてくれれば嬉しい。             

絵を描くために使った写真。家族で旅行した時のもの。 出来上がった絵は高寿園から名古屋に送った。