面影画28


7月2日の面影画は熊谷尚子さん




描いたネコ ちゃこ 13歳 メス                          

 ちゃこは小さい頃、尚子さんの家のとなりの焼き鳥加工場で飼われていた。正月休みに加工
場が休暇になり、その時に尚子さんの家に餌をもらいにきて、そのまま飼うことになったネコ
だった。ペルシャの血が入っているのか、目が大きくブルーだった。白地に茶色が入る体の色
から「ちゃこ」と名付けられて、家族に可愛がられた。                 

 ちゃこは頭のいいネコだった。家と外を自由に行き来していた。トイレは必ず家でせずに、
畑に行って済まして来た。                              
 子供たちも「ちゃー、ちゃー」と呼んで可愛がっていた。ちゃあは子供があまり好きではな
く、逃げ回ることが多かった。反面、ネコ好きな人はよく分かり、そういう人が来ると自分か
ら寄っていたものだった。                              

 ネコにはネコ、トコ、ミコと三種類のネコがいると、よく言われる。ネコはネズミを獲るネ
コ。トコは鳥を獲るネコ、ミコはヘビを獲るネコと言われている。            
 ちゃこはトコだった。よくスズメを捕まえて見せにきたものだった。最終的には食べるのだ
が、尚子さんに獲物を見せてから、誇らしげに食べていた。               
 食べるといえば、サツマイモが好きなネコだった。                  

 メスネコだったので、家で子供を産む。尚子さんの子供たちが「子猫の里親」探しで大変だ
った。「避妊してなかったからね・・仕方なかったんだけど・・・」「13年一緒に暮らしか
ら・・・」ネコを失った気持ちは18年ネコと暮らした私には本当によく分かる。     

 3月11日、尚子さんは仕事だった。職場は高台にあり無事だった。その職場が避難所とな
り、大勢の被災者を受け入れると、目が回るような忙しさになった。           
 被災者の騒ぎが一段落してから、ちゃこを探しに行ったが見つからなかった。外に遊びに行
くネコだったから、津波に流されてしまったのかもしれない。              
 ネコは家につくと言われる。尚子さんの家は津波で何もかも流されて、跡形も無くなってい
た。ちゃこが家に逃げていても、助かるすべはなかった。                

 同僚からは「連れて逃げれば良かったのに・・」と言われたが、職場にいたのだからどうし
ようもなかった。                                  
「山にでも逃げていてくれればいいんだけど・・」                   

 尚子さんの期待を込めて、精悍な「ちゃこ」の絵を描かせていただいた。        

 尚子さんにおくる、13年暮らしたちゃこの記録。                  




 7月2日の面影画は熊谷尚子(くまがいひさこ)さん。                

 十三年一緒に暮らしたネコの「ちゃこ」を描かせて頂いた。              

 津波で家が流されて、何もかも失った尚子さん。そこにはちゃこもいた。行方不明になって
しまったちゃこはどこかに逃げて生きているかもしれないと言う。            
 そんな尚子さんの気持ちは良くわかる。                       
 スズメを捕るのが上手だったちゃこ。どこかの山でスズメを追いかけている元気な姿が目に
浮かぶ。そんな精悍なちゃこを描いてやりたいと思った。                

 この絵が少しでもちゃこの思い出につながれば嬉しい。                

毎日風通しでテントの裾を上げる。風の強い日はロープを張る。 猫の話を涙ながらにしてくれた尚子(ひさこ)さん。