面影画44


7月23日の面影画は鈴木ふみ子さん




描いた人 鈴木浩美さん 28歳 嫁                         

 浩美さんは18歳の時に、ふみ子さんの息子雅春さん(27歳)と結婚して、鈴木家に嫁と
してやってきた。年も若かったし、可愛い嫁だった。ふみ子さんは素直な嫁に何でも教えて来
た。                                        
 子供は二人の女の子に恵まれた。長女は妃依(ひよ)、今年九歳になる。次女は沙彩(さや
)、六歳になる。三つ違いの二人を育てる若いお母さんは忙しかった。どこに行くにも二人を
一緒に連れて行き、何をするのも一緒だった。                     
 沙彩(さや)が今年小学に上がるのを、浩美さんは本当に楽しみにしていた。      

 一枚の写真がある。家族四人で撮った最後の写真だ。近所の神社のお祭りに、舞台で妃依 
(ひよ)と浩美さんが、仲間八人と踊りを披露した。写真はその後で撮ったもの。満足そうな
二人の笑顔がまぶしい。                               

 一年前から浩美さんはヤクルトの請負販売をしていた。成績は抜群に良く、今年の1月の新
年会で表彰された。その時の写真もある。トロフィーを片手にVサインする浩美さんの笑顔が
すばらしい。明るく、みんなに愛されていた浩美さん。その笑顔が、帰らぬ人となってしまっ
た。                                        

 3月11日、浩美さんは仕事だった。ヤクルトの事務所に帰る前に、大きな地震が来た。ふ
み子さんは事務所に行って、顔見知りの上司に言った。「浩美は?帰って来たら逃げるように
言ってください・・」上司はうなずいて、分かったと言ってくれた。           
 ふみ子さんはすぐに家に帰った。家では植木鉢が倒れたりして散らかっていた。ふと海の方
を見ると白い波が見えた。津波の第一波だった。                    
 すぐに車に乗って逃げた。必死だった。第二波の大津波からはかろうじて逃げ切った。  
 妃依(ひよ)は学校にいた。先生が誘導してくれて高台に逃げた。妃依(ひよ)は四日後に
やっと家に帰ってきた。                               
 沙彩(さや)は家にいたので無事だった。                      

 浩美さんはヤクルトの事務所から出て車で逃げたのは分かっている。たぶん、逃げようとし
た道が渋滞だったのだろうとふみ子さんはいう。                    
 事務所は全て津波で流された。上司も流されてしまった。みんな、こんなに大きな津波が襲
って来るなんて考えてもいなかった。浩美さんは、そのまま帰らぬ人になってしまった。  

 妃依(ひよ)は学校に行く時に瓦礫を見ると、ママを思いだして涙が出るという。    

 沙彩(さや)はママと同じ種類の車を見ると「ママ!」と思い、涙が出るという。    

 話を聞いている時にふと、ふみ子さんが「まだ、子供たちが明るいから助かるけど・・」と
ぽつりと言った。その言葉聞いていた沙彩(さや)が「まだ明るくなんかなってないよ!」と
叫ぶように言ったのが耳に痛かった。                         
 これが、子供たちの本音なのだ。                          

 ママの明るい笑顔を描いて二人に見てもらおう。私に出来ることはそれしかない。    


 ふみ子さんにおくる、若く可愛い嫁、浩美さんの記録                 
 浩美さんのご冥福をお祈りいたします。                       




 7月23日の面影画は鈴木ふみ子さん。                       

 津波で亡くなられたお嫁さんを描かせていただいた。                 

 結婚十年、まだ28歳という若さで帰らぬ人となってしまったお嫁さん。誰からも可愛がら
れて、仕事も熱心だった。                              
  9歳と6歳の娘を残して・・今年小学に上がる次女の入学式を楽しみにしていたのに、そ
れを見る事は出来なかった。                             
 地元の神社のお祭りで、家族4人揃った最後の写真を元に面影画を描かせていただいた。 

 本当に若い人の面影画を描くのはつらい。                      

 残された二人の娘が、なんとかこのつらい思いに耐えて欲しいと願う。また、二人娘を託さ
れたふみ子さんを心から応援したいと思う。                      
 子供たちにもつらい一日だったと思う。今、ママを思い出すのはつらいだけだ。そんな思い
を二人にさせてしまった。                              

絵を受け取りに来たひよとさや。さやのご機嫌が悪い。 TBSのカメラを向けられ、泣いてしまった。