面影画


6月5日の面影画は菅原由起枝さん




描いた人 菅原輝男さん 75歳 父                       
     菅原芳子さん 71歳 母                       

 輝男さんは気仙大工だった。温厚で無口な人だったが、家族を思う気持ちは誰にも負け
なかった。真面目で一本気で、職人気質がそのまま生き方になっていた。定年になってか
ら畑をやるようになり、畑仕事を黙々としている背中が、由紀枝さんには忘れられない。
 由紀枝さんがやっている畑に、一日に二回も三回も水をやりに来てくれた。由紀枝さん
のために松の剪定をやってくれた。                        
 松の剪定は由紀枝さんの娘に引き継がれるはずだった。ごはんが好きで、みんなで焼肉
に行ったりすると、4人分くらい食べるような人だった。体は丈夫で元気だった。   
 「がんばりすぎるなよ・・」が口癖だった。長女で大事に育てられた由紀枝さんにとっ
て、その言葉が本当に嬉しかった。                        

 地震が来た時に輝男さんはバイクで皆の安否確認をしていた。米崎の実家を助けに行く
途中で津波に襲われたようだ。見つかった時はヘルメット姿だった。「家族だけは守る」
と常々言っていた輝男さんだったが、その行動はその言葉通りのものだった。     

 芳子さんは今までずっと人の為に生きて来た。三十五年間の民生委員活動は、皇后様か
ら盾をもらうほど評価された。損得関係なく、人の為に生きて来た。そんな母の生き方は
、由紀枝さんにとって人生のお手本になる生き方だった。              
 「いいよ、いいよ」が口癖で、何かあると「大丈夫だよ・・」と励ましてくれた。お産
の時も手が赤くなるほどさすってくれた。                     

 今回の津波の時もそうだった。高田小学校の体育館の前で、避難してきた人の世話をし
ている姿が知人に目撃されていた。その高田小学校を津波が襲う。芳子さんは行方不明に
なってしまった。人の為に生きて来た芳子さんが自分から先に逃げる事は出来なかった。
 由紀枝さんが勤めている施設にも被災者が避難してきた。由紀枝さんは両親を捜しに行
きたかったけれど、施設の仕事が優先され、自分の両親を捜しに行く事が出来なかった。

 芳子さんは、食べることが好きな人だった。今回の地震の直前だった。大好物のキンカ
ンと白キクラゲのシロップ煮を食べた時に「おいしい・・」って喜んでくれた。本当に、
あんなに嬉しそうに「おいしい・・」って言ってくれたのは珍しかった。それが最後の言
葉だった。もう大好物の料理を作ってやることも出来ない。             

 もうすぐ結婚五十周年を迎える二人だった。どちらかという元気に活動する芳子さん。
家の仕事や畑仕事を黙々とやる控えめな輝男さん。外に出かけるときは、芳子さんは輝男
さんをたてて、自分が前に出る事はなかった。そんな両親を暖かく見守っているだけで幸
せだった。                                   

 由紀枝さんにおくる、ご両親の記録。                      
 輝男さんと芳子さんのご冥福をお祈りいたします。                



 6月5日、面影画の記念すべき第一号は菅原由紀枝さん。             

 津波で亡くなられたお父さんとお母さんを描かせていただいた。          

 最初の制作ということで、緊張の作業だった。終わったときは背中と肩がガチガチにこ
わばってしまった。本当に面影画が続けられるかどうか自分が試されている思いがした。

 絵が出来上がって、渡したときの由紀枝さんの笑顔に救われた思いがした。「そっくり
だ」と言ってくれたのがうれしかった。                      
 何だか、これでがんばれそうな気がする。                    

 文章は、聞いた話をまとめたもので、被災者というくくりではなく、ひとりひとりが生
きた記録として書いた。                             

最初の面影画。緊張の連続だった。とにかく疲れた。 絵を受け取って由起枝さんが喜んでくれたので嬉しかった。

 最初の面影画が終わった。高寿園に挨拶に行き、近くの神社の場所を聞いた。今回は毎
日大変な絵を描かなければならない。絵の神様に助けてもらわなければ、とても続けられ
そうにない。一番近くの神社に絵の神様がいると信じて、お参りすることにした。   

絵の報告とお願いに神社に行く。 氷上神社の立派な社殿。

 神社は氷上神社。由緒ある神社で、社殿の装飾に菊の紋が付けられている。社殿に参拝
し、良い絵が描けたことを報告し、今日聞いた重い話を預かってくれるように頼む。  
 往復で2キロ弱という距離だった。運動不足にならない為にも毎日参拝したいものだ。
面白い狛犬がいて、この頭をなでると何だかいいことがありそうな気がする。     

すばらしい木立に囲まれていた。 頭の突起がかわいい狛犬。愛嬌のある姿だ。