※※ 森林インストラクターへの道 ※※
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森林の生物多様性シンポジウム2日目
2002. 12. 4
シンポジウム2日目は朝9時から始まった。先日と同じ最前列に陣取り、興味深くそれ
ぞれの報告を聞いた。今日は人も少なくなごやかな”身内の報告会”という感じだった
が、内容は私にとっては理解するのに難しいものばかりだった。以下、そんな状態での
私の解説と感想であり、的を外れていることも多いと思うがご容赦願いたい。
森林総合研究所の中庭。小雨が降っていてしっとりした静かな風景だった。
●「絶滅危惧種ヤチカンバの形態的遺伝的変異から示唆された北海道2集団の保全策」
北海道支所からの報告で、絶滅の危機にあるヤチカンバの保全策について考察している
。ヤチカンバは更別と別海町の2カ所に残っているだけの貴重な種で、その保全策は緊
急を要する。遺伝的形質は2カ所の個体群ともほぼ同じで、片方が絶滅しそうな時は片
方の移植が可能であることなどが報告された。
私は前段に話の中にあった「絶滅危惧種チチブミネバリ」という言葉に驚き、秩父にあ
るチチブミネバリやヤエガワカンバが絶滅危惧種だということに驚かされた。環境変化
が絶滅の引き金になっていることを改めて認識させられた。この大きな変化の流れの中
、我々に何が出来るのだろうか。知ることは、時として重石を背負う事に似ている。
●「絶滅危惧種ヤクタネゴヨウの天然更新を阻害する要因の解明」生態遺伝研からの報
告で、屋久島(ヤク)種子島(タネ)に棲息する五葉松(ゴヨウ)についての保全策を
考察した。屋久島に1,500〜2,000個体、種子島に100個体しかないヤクタネゴヨウは
日本版レッドデータブックには「絶滅危惧1B類」として記載されている。
現地での詳細な調査活動や様々な方法を駆使した保全策の構築には本当に頭が下がる。
地味な取り組みを長期間されている関係者及びボランティア諸子に賞賛の思いを捧げた
いと思う。そんな取り組みと裏腹に様々な要因で枯れていく木々。絶滅の瀬戸際で戦う
実感が伝わってくるレポートで、非常に勉強になった。人間が関わる大きな流れの中で
消えていく多くの種がある。このままではいけないと多くの人が立ち上がらなければ、
この流れは止まらない。機会があったら是非見てもらいたいレポートだ。
●「木材腐朽菌の多様性-茨城県下における調査結果から-」微生物生態研からの報告で
木材腐朽菌(サルノコシカケ類)について詳細を調べ、樹種、林齢、森林植生タイプ別
に分類し、その多様性を知るための報告。菌類の多様性に関しては他の生物の追随を許
さないことは分かっていた。何と言っても、いまだに名前すら付いていない菌がいくら
でも存在するということだし、これから先もどこまでその分類が深化してゆくか分から
ない。そんな訳で、この報告は途中から何のことか理解不可能になっていた。
●「森林の伐採と成長に伴うチョウ類群集の変化」昆虫生態研からの報告で落葉広葉樹
林とスギ人工林でのチョウ類群集を調査し、どのように群集が変化するかを考察した。
結果にちょっと疑問が湧いたのは「落葉広葉樹林伐採後の草原型チョウの増加は1年し
かなく、その後は激減する」というものと、「スギ人工林伐採後5〜6年の間は草原型
チョウにとって住みやすい環境である」というもの。
所沢でコナラ林再生の作業をやっている体験から、里山と言われる環境では伐採・下刈
りを繰り返すことで草原型チョウの増加を促進する。と思っていた。この調査結果が茨
城県特有のものなのか、それとも何か別の因子が存在するのか、素直に調査結果を受け
入れられない気分がある。スギ人工林は下刈りをするから、その期間の環境が草原と同
じになるとの説明だったが、何となく釈然としないものを感じる。里山の林床植生の方
がスギ人工林よりも遙かに豊かだと信じたい。また、チョウを保全する為には云々とい
う語り口にもちょっと抵抗を感じた。この考え方は岩槻先生が危惧した「狭い視野に陥
った研究」そのものなのではないか。
●「セイヨウミツバチの定着と在来訪花昆虫の衰退は小笠原の植物の繁殖にどのような
影響を及ぼすか?」群落動態研と昆虫生態研の共同研究で、養蜂目的で小笠原に入った
セイヨウミツバチが及ぼす影響を考察している。ポリネーターの交代による植物への影
響はどの程度か、固有ハナバチの衰退の原因は何か??様々な疑問が浮かんだが、どれ
も明快な答えが出るはずもなく、またしても人間が作り出す大きな環境の変化に対応し
きれない生物に思いをはせる事しかできなかった。
●「メグロが絶滅する日」多摩森林科学園・教育的資源研究グループによる報告で、小
笠原諸島に棲息する固有の鳥「メグロ」の生息数予測と絶滅の可能性を検証した。二つ
の方法により予測された繁殖個体数は10,000羽〜12,500羽となった。絶滅へのシミュ
レーションでは絶滅まで至らずひと安心だったが、それにしてもあざといタイトルを付
けるものだ。タイトルが一人歩きするようなレポートは問題だ。
●「自動撮影による中大型ほ乳類モニタリング手法の開発」森林総研北海道支所からの
中間報告とでもいうもの。自動撮影はいまだ発展途上の技術であって、これからの開発
課題が三つある。機械技術・調査技術・データ処理技術の開発である。なかでも誤作動
の防止をいかに実現できるかが本手法の最大のポイントであるとのこと。動物写真によ
るデータは膨大な情報をもたらせてくれるはずで、ぜひ順調に開発して欲しいものだ。
●「緑の回廊はツキノワグマにとって有効か? 北上山系の場合」森林総研東北支所の
報告で、国の肝いりで設定された「緑の回廊」は本当に有効なのかを検証した。国有林
のカラマツ防風のために設置してある保山帯を中心にリンゴのトラップを仕掛け、クマ
のモニタリングをした。ところが、奥山にいると思われたツクノワグマは里山近くに出
てきており緑の回廊とは関係ないところでばかりサンプリングされた。この結果がどう
いう結論を導き出すのか、それともこれは一時的なたまたま起きた現象なのか?判断に
迷う場面だが、餌の取りやすさからツキノワグマが里山近くを徘徊することが増えてい
ることは間違いない。
「緑の回廊」が有効かどうかをこうした大型ほ乳類で検証しようというのは無理がある
のではないだろうか。この話を聞いていて、数年前に秋田マタギの西根さんに聞いた話
を思い出した。西根さんはこう言っていた。
「昔はマタギがいたからクマが奥山に逃げた。今は保護だとか何とか言ってるからクマ
がどんどん増えてきた。そのうちに町場でクマに襲われる人が出てくるよ。」
西根さんの予言が当たらない事を祈る。
●「森林の断片化がニホンリスの生息に及ぼす影響」多摩森林科学園・教育資源研究グ
ループによる高尾山と自然科学園でのニホンリス生態調査の報告。すべてもっともな報
告で特にこれといった印象はなかった。リスを通して環境の保全を訴えるのか、リスそ
のものの保護を訴えるのか、調査内容が何を求めてのものなのかが不明。
一般講演はこれで終わり、総合討論に入った。様々な意見が交わされ、それぞれが興味
深いやりとりだったが、部外者から言わせてもらえれば身内の意見交換会という当たり
障りのないものに終始した。もっと、若い人の真剣で斬り合うようなやりとりを期待し
たのだが期待はずれだった。
二日間お疲れさまでした。