※※ 森林インストラクターへの道 ※※ 50


日本一の復層林で枝打ちをした



2004. 2. 28.29


2月28日(土)29日(日)の二日間、茨城県里美村の荷見(はすみ)山林に枝打ち
作業の手伝いに行った。この山林はおそらく日本一ではないかという復層林を有する山
で、荷見(はすみ)泰男氏という篤林家の手塩にかけられた山林である。ぜひ一度拝見
したくて、森林インストラクター仲間の塚本さんに依頼して実現した作業だった。ちな
みに荷見山林は、今年度の農林水産大臣賞を受賞している山林である。       

夜明けの高速を里美村に向かって走る。今日は晴れそうだ。 里美村にある荷見さんの家の門。旧家らしい貫禄の造りだ。

参加者は塚本さん、福原さん、村田さん、植田さん、大森先生と私の6名に山主の荷見
さんを加えて7名での作業となった。作業に先立ち荷見さんに山を案内してもらった。
80年〜90年生のヒノキやスギの上層木が凛として立つ下には手入れされたスギ林や
ヒノキ林が広がっている。教科書の言葉だけで知っていた「復層林」がそこにあった。
荷見さんは次から次へと場所を変えて林や木の説明をしてくれた。復層林にするための
条件、間伐の仕方、日当たりに影響する上層木の本数管理、樹種による適地、適木。 

素晴らしい復層林。荷見山林のどこでもこの風景が見られる。 塚本さん福原さんとともに荷見さんに山を案内してもらう。


80年生のヒノキ上層林とスギの下層林。 下層林のスギ林もしっかりと枝打ちしてある。


さらに成長した下層林。しっかりと枝打ちしてある。 主伐を待つ80年生のヒノキ林。林床は明るい。

木の病気についても実物を見せて説明してくれた。気根の出るスギ、これは製材しても
穴が多くて売りものにならない。苗木の時には分からないので困るそうだ。漏脂病のヒ
ノキ、これも製材する価値のない木になってしまう。見せてもらったヒノキはじつに堂
々たるヒノキだったが製品価値はないとのこと。林業家の選木の厳しさを知る。水分の
多い土地に出やすいとっくり病についても教わった。このように現場で現物を見ながら
聞く講義はじつに有効で、林業の現状を知るには貴重な経験だった。        

みごとな復層林。 気根の出たスギ。これはもう切り捨てるしかない。


漏脂病のヒノキ。幹が異常な隆起と陥没を示している。 ラダーを組み立て、作業の準備をする。

作業は80年生のヒノキ林の下に下層林として植えられたスギ林の枝打ち。ラダーを組
んで腰には安全帯(あんぜんたい)をしてスギの枝打ち専用の細かい刃の切れ味鋭い鋸
を携帯する。まずは曲がっている木を見つけて印をつける作業。こうして抜き切りする
木を先に選んでおかないと切ってしまう木の枝打ちをしたりというロスになる。これも
林業家の実務として欠かせない作業だ。印は目の高さの皮を鉈でむいておき、どこから
見ても分かるようにしておく。そして薄暗い林に入り、細い木にラダーを掛けユラユラ
揺れる木に登って枝を切る。鋸は切れ味が鋭く、ほぼ一引きで枝が落ちる。もちろん作
業中は安全帯を使用するのだが、安全帯に体重をかけるとスギも一緒に斜めになってし
まうので何だか怖い。それでもすぐに慣れて、順調に枝を打っていた。       

ラダーを木に掛けている福原さん。 枝打ちをしている塚本さん。


枝打ちをする荷見さん。 細い木はこんなにたわむ。

昼食は奥さんが差し入れてくれた。大盛りのごはんに色とりどりの美味しいおかずがつ
いて、申し訳ないようなご馳走だった。山仕事の時はいつもコンビニのおにぎりとカッ
プラーメンだったので、これは感激だった。ヒノキの巨木に囲まれて食べる昼食はじつ
に美味しく贅沢な時間だった。                         

午後も枝打ちを続ける。荷見さんに言われてラダーを3本つなぎの二間半にして作業を
始めたのだが、この1メートルの高さが怖かった。ラダーがS字にたわみ、スギの曲が
りも激しくなる。思わず足や腕に力が入ってしまい、背筋にゾクッとくる感覚がある。
慣れるまで3〜4本の作業が必要だった。4m50cmのラダーに登り、6mの高さま
で枝を打ち、サアッと明るくなった目の前に青空が広がり、はるか上空に巨大なヒノキ
の枝葉を見つけた時の気分はどう説明したらいいだろうか・・・。ここが巨大なヒノキ
林の中なのだという事を理解するのにはしばらく時間がかかる。まるでどこかの森の惑
星にワープでもしたような気分になる。普通、枝打ちする林の上に林は無く、そのまま
青空につながっているはずなのに、ここでは空との間にもうひとつの林がある。   

ラダーの上からスギ林を見下ろす。 荷見さんご自慢の果実酒。他にも沢山あった。

そんなこんなであっという間に午後の作業も終わった。薄暗かったスギ林はすっきりと
明るくなり、日が差し込むようになった。道具を片付け、トラックの荷台に乗って帰っ
たのだが、夕方のトラック荷台は寒かった。今晩は荷見さんの家に泊めてもらうことに
なっている。家では暖かいストーブの横にごちそうが並べられ、大きな鉄鍋には茨城名
物のアンコウ鍋が湯気を立てていた。荷見さん自慢の果実酒が次から次に出されて試飲
会になった。ツルアケビ酒、木イチゴ酒、マツプサ酒、グミ酒、ウワミズザクラ酒、ヤ
マボウシ酒、ツルニンジン酒、マルメロ酒、プルーン酒、コクワ酒、マタタビ酒、スグ
リ酒、クワ酒、ブルーベリー酒、アンズ酒、ウメ酒、アセロラ酒、クコ酒などなど。
大森先生、荷見さんの話が楽しく、村田さんもなかなか帰れない。私と塚本さんは果実
酒ですっかりいい気分になってしまいすでに夢見心地、マッサージ機のお世話になって
ぐっすりと眠りについてしまった。                       

アンコウ鍋も美味しかった。 ビンを抱えて果実酒を飲む。


特にこの梅酒は絶品だった。あんな旨い梅酒は飲んだことがない。 森林インストラクターを目指す村田さんと荷見さん。

翌朝も枝打ち作業をした。人数は4人に減ったが作業効率は落ちず、順調に枝打ちが進
んだ。1反8畝のスギ林を2日で枝打ちするのだから、なかなかの早さと言える。この
素晴らしい復層林の中で作業が出来ることの喜び、自分の仕事が少しでもこの復層林に
貢献出来たことが嬉しい。また機会を作って作業に参加したいものだ。出来れば瀬音の
森のメンバーとも来たい。スギ、ヒノキ林の究極の姿がここにあり、理想の人工林がこ
こにある。こうした森を全国の里山に作れたら、日本はどんなにか素晴らしい国になる
だろう。我々が細々とやっている枝打ちや間伐は、こうした森を作るための一里塚なの
だ。みんなにそれを実感して欲しい。                      

二日目の枝打ちをする塚本さん。 鬱蒼としていた杉林がこんなに明るくなった。


80年生のヒノキ林で昼食 贅沢で優雅な時間が流れていく。


曲がった木を抜き切りしている塚本さん。 荷見さんもずっと枝打ちを続けている。


別の林のパノラマ。 80年生のヒノキ林にスギ・ヒノキが植えられている。


枝打ちが終わり、最後の抜き切りをする塚本さん。 作業を終えて帰るトラックの荷台、名残惜しい気持ちでいっぱい。