縄文杉に会いに屋久島へ 2


屋久島は亜熱帯から亜寒帯までの植物が混生する島。その緑に圧倒された。


10月7日(土)行動予定                            
6:00 朝食                                  
7:00 出発:タクシーで荒川口へ                        
8:00 登山開始                                
11:00 大株歩道入り口(大休止・昼食)                    
14:00 縄文杉到着(休憩)                          
15:00 高塚小屋着                              

海から朝日が昇り、快晴の1日が始まった。 多少の眠気を残しながらも元気いっぱいの4人。気合い充分だ。

朝6時に朝食。急いで支度して、7時に山口さんが迎えに来るのを待つ。時間通りに来
た山口さんのタクシーに荷物を乗せ、登山口の「荒沢口」へと向かう。途中うっかり弁
当を忘れるところだったが思い出してあわてて受け取りに行った。タクシーはズンズン
と山の中へと入って行く。一旦山の中に入るとまるで信州の山奥にいるような錯覚に陥
ってしまうほど山が深い。とても南の島にいるとは思えない光景が車窓に展開していた
。山口さんが周辺の樹木の解説をしてくれる。私も大村さんも関東の山の樹木には詳し
い方だと思うのだが、この亜熱帯の島は驚くことばかりだった。          

屋久島は亜熱帯から亜寒帯までの垂直分布が一箇所で見られる日本で唯一の場所で、中
間地点での亜種の存在も多く、植物学的にも貴重な場所だ。見たことも聞いたこともな
い植物が多くて、運転している山口さんに矢継ぎ早に質問する。この日、目にした未知
の植物で山口さんが解説してくれたものの一部は以下の通り。           
・サキシマフヨウ【アオイ科フヨウ属】白い花が咲いていた。           
・ハシカンボク【ノボタン科ハシカンボク属】ピンクの花が咲いていた。      
・アブラギリ【トウダイグサ科アブラギリ属】中国原産のキリ。虫食いで葉がボロボロ
・ヤクシマサルスベリ【ミソハギ科サルスベリ属】白く細かい花が咲いていた。   
・リュウキュウマメガキ【カキノキ科カキノキ属】実は苦い。実から柿渋を取る。  
・イスノキ【マンサク科イスノキ属】縄文杉周辺には大木がある。         
・カナコギ(カナクギノキ)【クスノキ科クロモジ属】とても固い木。       
・サクラツツジ【ツツジ科ツツジ属】淡いピンクの花が咲いていた。        
・バリバリノキ【クスノキ科ハマビワ属】バリバリ燃えるのでこの名前になった。  
・ヤクシマオナガカエデ【カエデ科カエデ属】ホソエカエデの変種と思われる。   
この他にも・ボウロ・ヒモツル・ヒカゲスギなど珍しい植物にたくさん会えた。   

荒川口に到着。たくさんの車が一列に停まっていた。 身支度を整えていざ出発。最初の橋の手前に道標があった。

宿から約1時間、やっと荒川口に到着した。登山口周辺にはおびただしい数の車が林道
沿いに一列に停まっていた。100台くらいはありそうだ。聞くと日帰り登山の人の車
だそうで、ガイドさん同志の場所の取り合いで年々停める場所が無くなっているとのこ
と。場所取りでトラブルもあるそうだ。もの凄い数の人がこの山に入っていることにな
る訳で、少々驚いた。我々は一泊登山なので、この人達とは歩く時間がずれているから
安心なのだが、もし一緒だったらと思うとぞっとする。山口さんと別れていよいよ二日
間の山歩きの始まりとなった。                         

岩を掘り抜いたトンネルがあった。傍らには巨大な杉の切り株が。 谷を渡る橋には手すりが無い。橋の向こうにヤクザルがいた。

安房川沿いのトロッコ道をひたすら歩き、渓谷にかかる何本かの橋を渡る。ヤクザルが
出てきたのをカメラに納めたり、橋の上から川をのぞき込んでヤマメを観察したりしな
がら小杉谷集落跡に到着し、ここで小休止。学校跡の広場を歩き、展示してあるパネル
で昔の集落を想像する。安房川に奥多摩のヤマメを放流したという石碑が建っていた。
雨の多い島で激流に揉まれながら定着したヤマメの生命力も凄いものだと思う。今の時
代だったら種の移植に関しては問題が多いところだが、これは昔の話だし、定着してし
まったのだから仕方ない。人間の都合でここに放されたとはいえ、魚たちは生きていか
なければならないのだから。                          

沢はものすごいゴーロ状態。水の激しさがよく分かる。 奥多摩ヤマメ放流の石碑を熱心に読んでいた大村さん。記念写真。


校庭から登山道方面を望む。もうここに子供達の声は戻ってこない。 三代杉の前で記念の写真を撮る。その巨大さに圧倒された。

ここからトロッコ道は歩きやすい木道に変わったので、足元がだいぶ楽になった。しば
らく歩くと初めてのヤクスギ(三代杉)が現れた。その巨大さに圧倒され、写真を撮り
まくる。女性陣は杉のウロにもぐり込んで写真を撮っている。人間と比較すると本当に
その巨大さが分かる。こんな杉がこれから次々と出てくるのかと思うとちょっとドキド
キする。なおも川沿いのトロッコ道を延々と歩く。ガイドブックに飽きるほど歩くと書
かれていた通りだった。深い渓谷や滝をチラチラと見ながら、ヤクシカの写真を撮った
り、花の写真を撮ったりと飽きることは無かった。上流から下りてくる人がいた。声を
かけると今朝登って帰ってきたところだとのこと。まだ10時過ぎなのに健脚なことだ
と驚かされた。その後は続々と健脚日帰り組が下りてきた。            

時々登山道でヤクシカに出会った。驚くほど近くで観察できた。 たまに渓谷沿いの展望が開けるとこんな景色が広がっている。

11時に予定通り大株歩道入り口に到着し大休止。階段を片足を引きずりながら下りて
きた中年の男性が「階段で足をやられた・・」と痛そうに脂汗を流していた。その姿を
見て4人に緊張が走ったが、気分を変えて昼食にする。予約しておいたお弁当はカラフ
ルで味も量も適切だった。大村さんがハーブティーを入れてくれたのがサッパリとして
おいしかった。ここからは急な登りになるし、下りてくる人との交差も煩雑になるだろ
う。昨年ここで滑落して亡くなった人もいるし気を抜けなくなる。ひと休みして、改め
て身支度をし直して気合いを入れた。                      

予定通り大株歩道到着。自然遺産の看板を見ている大村さん。 予約したお弁当を食べる。なかなか美味しい。

大株歩道は木の階段が続き、その後は岩だらけの山道になる。何かにすがりながら登る
急斜面で下る人と煩雑にすれ違わなければならない。多くの登山グループは先頭がガイ
ドさんで、すれ違いながらいろいろ聞いてくる。お互いが無線機で交信しながら歩いて
いて、山小屋の収容人数などを確認している。途中の交信でどうやら高塚小屋はほぼ満
員のようだという事が分かった。満員であろうと行かなければならないのだから仕方な
い。階段が続く歩道をしばらく登ると「翁杉」に到着。蔦のからまったその姿が白髪の
ように見えることからこんな名になったらしいが、木肌はまだ充分若々しかった。

大株歩道の急登で汗を流す。足元が滑るので慎重に歩く。 「翁杉」に到着。大きな看板があって分かりやすい。

そしてすぐにウイルソン株に到着し、ここで小休止。大勢の人が休んでいて、グループ
毎に交代で株の中に入って行く。巨大な株の内部は空洞になっていて、暗闇の中に水音
が響いていた。株の中に清水が流れているのだ。見上げる空洞の穴から青空とスックと
伸びた巨杉の姿が見える。空洞の中は8畳くらいの広さがありそうだ。何という大きさ
なのだろうか・・・しばし異空間に身を置き、時間を忘れた。中には祠があり、静かに
我々を見守っていた。株の中に入った瞬間の感動は特筆もので、今回の旅で得た貴重な
体験の一つだった。                              

巨大な切り株が現れた。ウイルソン株だ。とにかくデカイ。 4人が並ぶとこんな大きさ。株がいかに大きいかよく分かる。


株の中は広い空洞になっていて、中からハート形に空が見える。 自然探求路にあった名もない巨大な杉。こんな杉があちこちにある。

ここからは山口さんが教えてくれた裏道を行く。大勢の下り客がいることを山口さんが
心配してくれて裏道を教えてくれたのだ。自然探求路という名前になっているが、混ん
でいる道を迂回して本道に戻る道で、人に会わないので歩きやすいとのこと。確かにこ
の道ですれ違ったのは1グループだけだった。道も階段ではない普通の山道なので歩き
やすかった。尾根の巨大なヤクスギも見事だったし、原生林の眺めも素晴らしかった。
山越えして本道に戻った時には下る人も少なくなったようだ。日帰りの人はそろそろ下
山しないと暗くなってしまうのだろう。本道の階段は相変わらず続いている。小柄な杉
谷さんが両手を使って登ると楽だと言うのだが、背の小さい人と違い我々はそうはいか
ない。足が弱いと言っていた女性陣が元気はつらつなのが何だか悔しい。      

縄文杉よりも古いと言われている大王杉。まだ葉も茂って若い印象。 枝が融合した夫婦杉。濃密な緑の空間は何があっても不思議ではない。

周辺には巨大な木々が増え、ヤクスギを見てもさほど新鮮さは感じなくなっていた。ヒ
メシャラの巨木やツガの巨木に圧倒され、谷のコケに魅了され、張り巡らされた木の根
に驚かされた。大王杉が出てきた。縄文杉よりも年代が古いとされるヤクスギだ。すっ
と立ち上がるその姿は威風堂々として若々しさを感じる。そして夫婦杉。枝同士が融合
してつながってしまった2本のヤクスギ。ガイドブックで見てはいたが、実際に見ると
その不思議さよりも、そうさせてしまう周辺の環境にこそ秘密がありそうに感じる。こ
こでは何があっても不思議ではないような気配が満ちている。           

元気な女性陣が疲れた様子も見せず先を登っていく。 デッキが見えた。この上に縄文杉がある。

目の前に大きな建造物が現れた。巨大な階段だ。この上に縄文杉があるはずだ。やっと
着いたという思いと、すぐに縄文杉を見たいという気持ちが交錯する。井川さんが駆け
るように階段を登る。そして、そこに縄文杉がいた。               

この杉を見るためにここまで来たのに、最初の印象は自分でもおかしいくらいそっけないものだった。

写真などで何度も見ていたので、初めて見るような気がしなかったが、確かに縄文杉が
そこにいた。第一印象は「ずいぶん白いな・・」だった。今まで見てきたヤクスギと比
べて木肌が白かった。枝にも勢いが無く、余生わずかといった印象を受けた。思ってい
たような感動は無く、周囲の異常なガードぶりも相まって、何だか置物のような印象を
受けた。それでも縄文杉である。我々は何枚も写真を撮った。デッキの片隅では夜の縄
文杉を撮影するとかで、大きなカメラを持った人達がブルーシートの下で酒盛りをして
いた。「こんなとこで酒盛りなんかすんなよ・・」と思った事も印象を悪くした一因か
もしれない。                                 

縄文杉の根元はこのように木の枝で土留めが作ってある。 とりあえずお約束の記念写真。ご満悦の3人組。

縄文杉のすぐ上に東屋がある。休憩用の東屋なのだが、山口さんが山小屋よりそこに泊
まった方がいいよと教えてくれた場所だ。本来なら宿泊は出来ない場所なので、暗くな
るまでテントは出さず、夕食の準備をする。日が陰ったら急に寒くなった。暖かいコー
ンスープが嬉しい。ガスコンロが二つあるのでご飯を温めたり、ウインナーを煮たりと
大活躍だ。冷え込んできたので合羽を着込み、シュラフにくるまっての夕飯となった。
お酒を飲んでご飯を食べてやっと温まってきた。暗くなったので4人用テントを東屋の
中に張る。サイズがピッタリでまるで計ったようだ。中に入るとじつに暖かい。芋焼酎
の「三岳」を飲んでいるうちに気分良くなってしまい、そのまま寝てしまった。3人は
満月に照らされた縄文杉を見たり、星を見たりしていたらしい。元気なことだ。   

東屋で休憩し、今晩の宿として確保する。 日が落ちたら寒くなり、頬被りして寝袋にもぐり込む。



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