吉野の桜・奈良の旅一日目


東京から奈良まで走り、翌日吉野の桜を見に行った。



 奈良の橿原に来ている。朝七時に家を出て九時間ひたすら走って午後4時にホテル到着
。ホテルの窓からはすぐ前に畝傍山(うねびやま)が見える。すぐ下が橿原神宮駅で電車
の走る音が賑やかに聞こえる。                          
 晴れていて気持ちよいドライブだった。横風が強くて軽い車が流されて怖かったが、安
全運転で無事に奈良に到着した。途中の山々の春紅葉(はるもみじ)が綺麗だった。山桜
も綺麗で今の季節ならではの風景を堪能した。                   

東京から奈良まで走る。途中のサービスエリアで休憩中。 ホテルの窓から外を見ると畝傍山が正面にあって、素晴らしい景観。

 長い運転で疲れたので一休みしてから市内を散策し、フロントで勧められた和食処に行
く。旬菜「かづ」は頼んだものが全部美味かった。桜鯛のお造り、タコの柔らか煮、大和
牛とタケノコの治部煮、ジャンキーハムカツ。地元素材が絶品で、大満足の夕食だった。

ホテルで紹介してもらった和食処で夕食。佇まいはとてもいい店。 季節のお刺身ということで桜鯛のお造りを注文。


タコの甘煮が柔らかくて美味しかった。筍も絶品で大当たり。 ハムカツはこの店のオリジナル。イタリアのウインナーを使ってる。

 今回もホテルは全部素泊まりで食事は外で食べる。自分の好きなものを食べられるので
この方法がいい。本当は食が細くなり、ホテルの夕食が食べきれないためだ。食べ物を残
す罪悪感で無理して食べてしまい、苦しい思いをすることになっていた。最近は素泊まり
可のホテルを優先して選んでいる。地元の美味しい店で少しだけ食べるのが実に快適だ。
 さて、いよいよ明日から念願の奈良散歩。まずは吉野の桜を見に行く。       

朝、窓を開けるとこの天気。吉野行きが晴れて良かった。 近鉄橿原神宮駅に来た。これから急行電車で吉野に向かう。


吉野山と金峯山寺のポスターが期待を盛り上げてくれる。 蔵王堂特別ご開帳の立て看板。前回見られなかった像が見られる。


これは特急電車。満席で切符が買えなかった。 大和上市駅で待ち合わせたタクシー。これで吉野を回る。

 奈良一日目、朝早く起きて電車で吉野に向かう。急行電車で四十八分、大和上市駅に到
着。この駅で予約していたタクシーに乗車する。タクシーで吉野山に登るという方法を友
人に教えてもらい、事前に予約しておいたもの。二時間半の利用で一万四千円という決ま
りだとのこと。観光案内はない。                         

大和上市駅。遺跡巡りのグループが一緒に降りた。 ここが宮滝遺跡。何もない広場だが、千四百年前に歴史の舞台だった。

 ここから宮滝遺跡に向かう。宮滝は大海人皇子(おおあまのみこ・のちの天武天皇)と
う野讃良皇女(うののさららのひめみこ・のちの持統天皇)が近江朝廷から逃げ隠れ住ん
だ場所。前回来た時に場所を知らずに車で走り抜けてしまった遺跡だった。      
 「はい、ここが宮滝です」とタクシーが止まった場所は、立て看板が一枚立っているだ
けでなにもないところだった。目の前に広がる空き地を眺めがら周囲の山々を見渡す。 
「ここがそうだったんだ・・」と改めてその場所に立ち、はるか昔の困難な逃避行に思い
を馳せた。しばし立ち尽くし、周囲の山を眺める。二人が見ていた景色が目の前にあると
いうのが何だか不思議な気がした。う野讃良皇女は持統天皇になってから三十回以上ここ
に行幸したという。亡き夫との懐かしい思い出の場所だったということなのだろう。  

次に案内されたのは桜木神社。ここも大海人皇子ゆかりの場所。 谷川沿いの静かな神社で、空気が違った。

 近くの桜木神社に寄る。ここは大友皇子(おおとものみこ・天智天皇の息子)の軍勢に
襲われた大海人皇子が桜の木の陰に隠れて難を逃れたという伝説の場所。人もいない静か
な境内に杉の巨木が仁王立ちしていた。本殿裏に大きな山桜があり、花びらがハラハラと
散っている。あの木が大海人皇子が隠れたという桜なのだろうか。境内を流れる川の清ら
かな流れは飛鳥の時代も同じように流れていたはずだ。歴史と現実が重なる場所には独特
のオーラがある。吉野の桜を見る前に古代の激動を垣間見た。            

境内中央に巨杉のご神木が立っていた。桜の木は拝殿裏にある。 拝殿に参拝する。ここも千四百年の歴史が息づいている場所。

 タクシーは吉野駅から中千本を目指す。多くの観光客がバスに乗って中千本を目指して
いる。バスは中千本の桜の中を走り抜けて山の上に向かう。下千本の桜はすでに半分以上
散っていた。                                  
 途中で如意輪寺に立ち寄る。如意輪寺は後醍醐天皇の勅願寺。山門横のお堂に役行者 
(えんのぎょうじゃ)像があり、修験の寺であることを教えてくれる。後醍醐天皇の墓所
を参拝し、その数奇な人生に思いを馳せる。楠正行(くすのきまさゆき)辞世の句「かへ
らじとかねて思へば梓弓 なきかずにいる名をぞとどむる」が境内に掲げられていた。南
北朝時代の悲劇の舞台だ。                            

如意輪寺に立ち寄る。後醍醐天皇ゆかりのお寺。 立派なお寺で、後醍醐天皇の墓所がある寺だ。


役行者の木像。吉野は修験の地で、どこにでも役行者がいる。 歴史ある門。本来は下から山登りしてこの門に至る道を参拝する。

 中千本からは杉ヒノキの密生する裏街道をひたすら上を目指して走る。前回来た時に 
「この上には何もないだろう・・」と途中で引き返した道だ。桜の時期、この道は登り一
方通行になっており、一般車は進入禁止になっている。タクシーとマイクロバスだけが走
る道だ。延々と続く暗い道に飽きて来たころ急に明るくなって桜の花が見えた。奥千本の
桜が満開に咲いていた。                             
 奥千本再奥の金峯神社(きんぷじんじゃ)にたどり着く。奥千本の桜が満開だったが、
若い木ばかりで、山桜の大木はまだまだ花芽も出ていなかかった。金峯神社は修験道の修
行の道場で、ここから奥、大峯に伸びる道が有名な修験道の「奥駆けの道」になる。修験
道の聖地と言われる所以でもある。ここから女人禁制の道でもあり、源義経と静御前が涙
の別れをした場所でもある。                           

奥千本の金峯神社。修験の道場だった。ここからは大峯の奥駆け道。 高城山展望台の上。桜はまだ咲いておらず、一本だけ上で咲いていた。


展望台への急坂で疲れてしまったカミさん。一本の桜に癒される。 奥千本早咲きの桜が遠くに見える。皆、この距離を往復している。

 タクシーが走る下り坂は車一台がやっと走れる細い急坂。大勢の観光客が右に左に歩い
ている中をソロリソロリと下る。「この道は細くて大変なんですよ・・」と運転手さん。
毎日の事ながら人にぶつからないように神経を使うという。             
 途中の高城山展望台に行く。展望台への急坂に汗をかいて登ったのだが、桜はまだ咲い
ていなかった。展望台の広場に一本満開の桜があっただけで、他はまだ蕾のまま。満開に
なったらさぞすごい景色なのだろうが、寂しい景色だった。急坂を登ってくる老夫婦に 
「まだ桜は咲いてませんよ」と言うとがっかりして「聞いてよかった」と言って下りて行
った。                                     

水分神社に到着した。古い歴史を持つ神社で、豊臣秀吉とゆかりがある。 境内のしだれ桜がきれいに咲いていた。

 山を下って水分神社(みくまりじんじゃ)にたどり着く。水の分配を司る天之水分大神
(あめのみくまりのおおかみ)が主祭神で他十七柱の神様が祀られている。秀吉が祈願し
て子を授かったことから子守宮(こもりのみや)の別称があり、子宝に霊験あらたかと言
われている。                                  

桜の写真を撮る人で境内がごった返していた。 拝殿の隅にひっそりと牛王が祀られていた。


歴史ある神社をゆっくり見る。空が真っ青できれいだった。 境内の桜が映える。

 やっと桜が咲く場所にやって来た感じ。境内のしだれ桜が見事だった。この周辺が上千
本と呼ばれる桜の名所だが、大きな山桜は満開にはなっておらず七分咲きというところか
。山桜は花が小さいのでソメイヨシノを見慣れた目にはおとなしい桜に見えてしまう。 
 花矢倉展望台から見下ろす景色は見事だった。桜が雲海のように群生する奥に金峯山寺
の姿が遠くに望める。吉野を代表する景色の一つだ。手前の桜がもう少し咲いていれば素
晴らしいのだが、これは仕方ない。                        

花矢倉展望台から金峯山寺を望む。吉野の絶景の一つだ。 カミさんもスマもで写真を撮りまくる。


細い道を慎重に下るタクシーの中から桜を眺める。 急坂は桜街道のようだった。歩かずに車という贅沢。

 少し下って中千本に到着。ここでタクシーと別れ、徒歩での散策になった。近くの勝手
神社に参拝する。静御前や大海人皇子など様々ないわれを持つ神社だが、社殿がなく、境
内はお弁当を食べる人々で溢れていた。ちょうど昼時でお腹が空いて来たので、近くの柿
の葉寿司の店「醍予(だいよ)」に入って昼食。広い窓から桜が見える絶景の店だった。
肉厚の鯖と鮭を包んだ柿の葉寿司、吉野葛、ごま豆腐のランチ。ビールがじつに美味かっ
た。                                      

勝手神社。拝殿がなく簡単に作られた参拝所にて手を合わせる。 急食事処「醍予」の窓から吉野の桜が見渡せた。


お腹が空いていたのでご飯とビールが美味しい。 名物の柿の葉寿司が実に美味しかった。ゆったりと昼食。

 食後はすぐ隣の吉水神社(よしみずじんじゃ)に参拝。ここが素晴らしかった。境内か
ら見上げる一目千本の景色がまさに吉野山の桜だった。この景色を見るためにやって来た
と言っていい景色。一生に一度は見て見たかった吉野の満開の桜が目の前にある。この景
色の素晴らしさは写真では伝わらない。長い時間だったように思うが呆然と景色に見入っ
てしまった。                                  

吉水神社入り口。 参道の途中から金峯山寺を遠望。写真を撮る人がたくさんいた。


入り口の門。振り返ると桜が遠望できる。 一目千本の絶景。ここが吉野だああ・・・絶景に見入ってしまった。


この景色が見たかった。と、記念写真。 カミさんもパチリ。


みんな交代で写真を撮り合っている。 最後にカミさんもパチリ。

 吉水神社は役行者が創建した修験道の僧坊のひとつで、南朝の皇居だった場所。中に入
ると後醍醐天皇、源義経や静御前、弁慶の逸話や残された品々が目の前にある。豊臣秀吉
の寄贈の品など、数々の宝物を見ることができた。素晴らしい記憶の遺産。南北朝の後醍
醐天皇皇居、義経と静御前の物語、豊臣秀吉花見の本陣などなど数々の歴史の舞台になっ
て来た場所だ。                                 

後醍醐天皇の御製。京都への思いが伝わってくる。 ここが南朝の御所だった建物。


少し緊張しながら参拝を済ませる。御殿に入館する。 御殿から外を眺める。


御殿は崖の上に建っている。懸崖造りの柱が見える。 廊下の造りにも歴史を感じる。何かがいる気配が濃厚だ。


日当たりの良い縁側に座って庭を眺める。 涼やかな風が流れ、桜の花びらがはらはらと散っていた。


御神木の杉。大きさも年輪もすごい。 御殿の全体像。ここに天皇や義経や静御前がいた。

 こうしてその場所の空気を味わうことがなんと贅沢なことか。ましてや外は満開の桜が
咲いている。日当たりのよい縁側で庭園を眺めていると、桜の花びらがハラハラと散り、
つくばいの水に浮かぶ。ししおどしの音が静かな境内に響くのが時の風情を感じさせてく
れる。                                     

金峯山寺蔵王堂入り口。この階段の上に蔵王堂がある。 階段を登るごとに姿を現す蔵王堂の勇姿。

 いよいよ金峯山寺(きんぷせんじ)に向かう。前回は下の仁王門から登って来たのだが
、今回は上の正面階段から登って参拝する。徐々にその姿を現し、全体が見えた時の感動
した。その大きさ、青空と白い雲を従えた修験道の本拠地は威風堂々と姿を現した。役小
角(えんのおづぬ・役行者)が作った修験道の根本道場だ。             
 この時期だけ特別ご開帳になっている蔵王堂ご本尊に対面する。日本三大秘仏とされる
金剛蔵王権現像、向かって右から千手観音像、釈迦如来像、弥勒菩薩が変化して現れた姿
とされ、それぞれ現在・過去・未来を救うと言われている。             
 見たかった青不動が目の前にそびえる。蔵王権現の巨大な姿に圧倒される。前回来た時
は見られなかったその像の迫力に言葉を失った。ずっと座って像を見上げていた。何か、
体の中にふつふつと伝わってくるものがあった。来てよかった。           

参拝を終え、振り返り見る蔵王堂。素晴らしかった。 坂道を下る途中の道から見た中千本の見事な桜たち。


修復工事中の仁王門。 巨大な銅の鳥居。本来はここから登って参拝する。


道にあったお店の一つ。珍しい形についパチリ。 桜を眺めながら坂道を下る。


桜並木を下るのだが、急すぎて膝が痛くなる。 見上げる下千本の桜はもう散っているようだった。

 七曲りを下りながら桜の風景を楽しむ。周辺は下千本と呼ばれる桜の名所だが、多くの
桜が散り始めていた。膝が痛くなるような下り坂。桜の景色が足の辛さを忘れさせてくれ
た。                                      

坂道が続く。桜も続く。 きれいな桜にはついカメラが向く。


下千本の桜たち。 近鉄吉野駅。ここから電車で帰る。

 吉野駅について帰りの切符を買う。急行だったが奇跡的に座れたのでラッキーだった。
席に座った途端に眠くなるほど疲れた一日だったので、電車の揺れが心地よかった。  

 天気にも恵まれて最高の一日だった。ホテルに帰ってラウンジでコーヒーを飲み、夕食
の場所へ向かう。夕食は昨夜と同じ旬菜「かづ」。昨夜の料理が美味しかったので再訪し
た次第。今日も期待通りの料理で最高の夕食になった。今日食べたのは、桜鯛の煮付け、
白茄子の味噌焼、筍の天ぷら、だし巻き卵、奈良の酒。おいしゅうございました。   

昨日と同じ店で夕食。筍の天ぷら。 桜鯛とレンコンの煮物。


頑張って歩いたカミさん。お疲れ様。 美味しいお酒で一日の締めくくり。最高です。



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