奈良公園を歩く・奈良の旅四日目


興福寺・東大寺・春日大社を歩く。奈良は鹿と外国人がやたら多い。



 奈良四日目はホテルから歩いて奈良公園に向かう。歩いて回れる範囲にある興福寺・東
大寺・春日大社をゆっくりと回る予定だ。幸い天気も良く、風もないので快適な散歩日和
だ。                                      
 ホテルから奈良公園に向かう道は歩道の幅が広く、大勢の観光客が歩いていた。しかし
、本当に外国人ばかりだ。世界中から人が来ているのではないかというくらい様々な国の
人が歩いている。                                
 景観を守るためなのだろう、町屋風のローソンがあったり、民家風の郵便局があったり
と商店街も見ていて楽しい。ここはやはり歩くのが良さそうだ。           

朝、ホテルの窓から奈良駅を見る。晴れていて良かった。 奈良公園に向かう道。ローソンが古都風のカラーだ。

 興福寺の塔が見えて来た。本来の入り口は猿沢池から五十二段階段なのだそうだが、一
番近い南円堂への階段を登った。階段途中の延命地蔵尊に手を合わせ、一休みする。南円
堂の前に御朱印所があり、カミさんが御朱印をもらう時間に売店を覗き時間を潰す。  
 南円堂は重要文化財で中には国宝の不空羂索観音(ふくうけんさくかんのん)坐像が安
置されている。参拝するが、遠くからだったので詳細なお姿はわからなかった。国宝の五
重塔を見ながらゆっくり歩いて境内を巡る。鹿がいっぱいいて、鹿せんべいを持った人に
群がっている。外国人観光客が楽しそうに鹿と戯れているが、中には鹿に襲われている中
国人もいた。あまり鹿をおちょくると復讐されるようだ。みんな笑っている。     

南円堂の階段途中にあるお地蔵様に参拝する。 南円堂の素晴らしい景観。


中金堂の勇姿。中は参拝しなかった。 興福寺の五重塔は重厚で素晴らしい。

 興福寺と言えば阿修羅像。阿修羅像に会うために国宝館に入る。薄暗い館内に目が慣れ
ると、そこには国宝の仏像がずらりと並んでいた。資料によると国宝四十五点、重要文化
財十九点が展示されているそうだ。一体づつに両手を合わせて拝観する。大きな仏像もあ
り、頭部だけの仏像あり、ゆっくり見ながら回り込んだ裏側に阿修羅像がいた。    
 八部衆と十大弟子像の中の一体が阿修羅像だ。興福寺いや奈良を代表する仏像と言って
いい。伸びやかな手の表情、三つの顔が表す心もようなど見慣れた気がする仏像の本物を
前に足が止まってしまった。この像の素晴らしさは実際に見て初めてわかったような気が
する。脱活乾漆造の軽やかな造作が明らかに木造と違っている。重力を感じさせない足元
はまるで宙に浮いているようだ。                         
 他の像も素晴らしかった。大きな仏像の前に賽銭箱が置いてあったが、誰もお金を入れ
る人はいなかった。両手を合わせる人もほとんどいない。仏像は本来お堂の中に安置され
ていて崇敬の念で見られるべきなのだが、ここでは美術館の彫像を見るのと同じ見方をさ
れている。やはり、お堂の中で正対して両手を合わせながら見るのが仏像の見方なのだと
思う。                                     

 興福寺から群がる鹿を追い払いながら東大寺方面に向かう。途中の雰囲気の良い茶屋に
入って休憩する。朝粥を食べようと思ったのだが、まだ時間が早くてわらび餅とお抹茶の
セットになってしまった。静かな店内でゆっくりと抹茶を飲めたのがよかった。こういう
店には外国人は入ってこないようだ。良い時間を過ごすことができた。        

シカと遊ぶ観光客。鹿も人も多い古都。 参道にあった雅な雰囲気の茶屋に入る。


お抹茶とわらび餅をいただく。 喧騒を離れ、ゆっくり休むことができた。

 奈良公園は広い。東大寺が近くなるにつれて団体バスと修学旅行生が多くなって来た。
団体の制服が列になって進む姿があちこちから東大寺に向かっている。もちろん外国人の
団体も多い。人と鹿が入り乱れている。東大寺に入る前に昼食をと歩き回るが、どこも十
一時からになっていて、土産物屋で時間を潰す。                  

 昼食は東大寺近くの和食処「三山」。奈良の食材を使った御膳ランチを注文し、お酒も
一合注文する。出て来たランチは豪華で、美味しかった。お酒を飲みながら贅沢な時間を
ゆっくり楽しんだ。口開けの客だったが、すぐに席はいっぱいになり、賑やかになった。
人気の店のようで良かった。                           

お昼は懐石ランチ。東大寺横の三山で食べる。 お酒を飲みながら食べる懐石ランチは最高。今日は運転なし。


静かな店内。すぐに客でいっぱいになった。 お店の前で。


店を出て来るカミさん。 すぐ横が東大寺の参道。鹿と観光客が溢れていた。

 店の横に東大寺への参道があり、南大門へと向かう。すごい数の人の群れにたじろぐ。
ほとんどが外国人というのがすごい。鹿が乱入し、鹿せんべいを持つ人を追う。足元には
あちこちに鹿のフン。人をかき分けながら南大門に到着する。            
 南大門の大きさに驚かされた。見上げる仁王像の大きさと迫力に圧倒された。南大門の
梁の高さと大きさ、柱の太さ。見上げる人間の何と小さいことか。この大きさの建物を古
代に建てた人の偉大さ、その技術の高さ。仁王像の迫力がすごい。          

すり寄って来る鹿。慣れたものだ。 南大門の巨大さ。


頭を撫でてやる。 群れる群れる。鹿も人も群れる。


南大門の勇姿。素晴らしい。 仁王様もすごい迫力だ。


外国人がみんな写真に収めている。 見上げる梁の素晴らしさ。

 東大寺は聖武天皇が早世した基(もとい)皇太子の菩提を弔うために建てたもの。藤原
の申し子として天皇になった聖武天皇だったが、藤原のための律令制に反発するかのよう
に智積寺に倣って庶民の力を結集して東大寺を建立した。律令制度に反発する行基を採用
したのも聖武天皇の意思だった。                         
 入り口には大勢の人が並んでいる。団体の数も多い。多分、奈良で一番人が密集してい
る場所だろう。ものすごい人の数だった。人波をかき分けるように大仏殿に向かう。廻廊
を歩きながら大仏殿を眺めるのだが、その巨大さに目がおかしくなる。人の群れがあまり
にも小さく、建物との比率が考えられない比率なのだ。普通のお寺の五倍から十倍の大き
さになるだろうか。ありえない大きさだ。                     

南大門を振り返る。 遠くに大仏殿が見える。巨大さがありえない比率。


桜と大仏殿。 南大門と同じ布帛(ふはく)が回廊にもかけられている。

 大仏殿に近づくにつれてその巨大さが迫ってくる。入り口で見上げる大仏殿の大きさは
もうため息しか出ない。入り口を入ると巨大な毘盧遮那仏が見慣れたポーズで座っていた
。奈良の大仏だ。                                
 像は高さ15メートル、青銅で鋳造され、金で覆われていた。この大きさの仏像を鋳造
する技術と材料があったことが信じられない。この場所で造られ、その像を守るように伽
藍が建築されたものだろうが、その伽藍建築の技術も想像を絶するものだ。実際に見てい
ると、当時の人がどうやってこれを作ったのか想像することができない。信仰の力は奇跡
を起こすとしか言えない。                            

巨大な大仏殿。 中に入ると巨大な大仏が鎮座していた。


お馴染みの角度から、お馴染みのポーズ。 右脇侍(きょうじ)は虚空蔵菩薩の金色像。

 毘盧遮那仏の周囲を廻りながら写真を撮る。外国人と修学旅行生ばかりが目立つ。この
巨大な仏像と巨大な木造建築は外国人の目にどう映っているのだろうか。千二百年前の仏
像と伽藍が保存され今に至る時間の長さ。守られてきた技術、保存する技術、関わってき
た無数の人たち。全ての人々の思いがここにこの像と建物を見せてくれている。素晴らし
いことだ。                                   
 巨大な伽藍を支える太い柱一本ずつに手を添えて額を当てて感謝する。この木の柱が全
てを支えている。日本の技術の高さを見せてくれている。その一本に穴が開けられ、潜っ
て遊ぶ穴抜けに人が群がっていた。子供が主だが中には大人の女性も挑戦して喝采を浴び
ていた。やっているのは外国人がほとんどだった。穴の大きさは大仏の鼻の穴の大きさと
同じらしい。                                  

虚空蔵菩薩を横から見る。 この柱の巨大なこと。額をつけて古代に思いを馳せる。


大仏の光背の厚さがすごい。 反対側に回っても光背のすごさが気になる。


奥に安置されている多聞天像。素晴らしい迫力。 左脇侍(きょうじ)の如意輪観音坐像。

 大仏殿を出て興奮を鎮めるようにゆっくりと歩みを進める。お土産物に群がる外国人の
群れを避けるように静かな道を歩く。ゆるやかな坂を登り二月堂へと向かう。二月堂の前
に気になるお堂があった。見ると四月堂と書いてある。何気なく立ち寄ったのだが、ここ
のご本尊、十一面観音像が実に素晴らしかった。しばし座り込んで眺め入ってしまった。
涼やかな顔がなんとも言えない色気があり、美しい観音様だった。横に安置されている普
賢菩薩像も素晴らしいお姿で、この小さなお堂に隠された驚きだった。訪れる人もなくゆ
っくりと時間が流れる堂内で奈良の時間を堪能した。                

大仏殿を出る。後ろ髪を引かれる思いとはこういうものか。 二月堂へと向かう道。風情はいいが、人が多い。


この石段を登ると二月堂。 二月堂が見えた。

 二月堂に参拝する。修学旅行生が賑やかに動き回る人気のお堂だったが、ここの欄干が
「二月堂のお水取り」の舞台になるのかと思うと感慨深いものがあった。欄干から奈良市
内を望む景色も格別で、軒に吊られた灯篭の美しさと相まって二月堂ならではの素晴らし
い景観を作っていた。                              

二月堂は本当に人が多かった。修学旅行生が群れている。 吊り灯籠は二月堂のシンボル。


欄干から眺める奈良市内の景色。 廻廊の裏側。

 欄干を一回りして三月堂に向かう。三月堂は法華堂とも言われ、数多くの国宝が安置さ
れているお堂だ。照明が絞られた薄暗い堂内に入ると目に飛び込んできたのがご本尊の不
空羂索観音(ふくうけんさくかんのん)像だった。金色に輝く国宝の乾漆像。その手に持
った羂索(けんさく=あみ)で全ての人を拾い救い出すという。その最強の仏像は聖武天
皇が他での製作を禁じたと言われている。観音像に見入っていたら、係りの人が出てきて
堂内の説明をしてくれた。この説明が実に軽妙でわかりやすく、とても勉強になった。 

 ご本尊を中心に合計十体の仏像が並んでおり、全てが奈良時代に造られたもので国宝に
指定されている。四天王像の衣装が中国式なのは仏師が中国から来た人だったのではない
かとのこと。仏教伝来直後のことなのでうなづける。歴史ある仏像が並んだ空間に身を置
き、奈良を味わう。                               
 それにつけてもご本尊の観音様の美しいこと。興福寺の阿修羅像と同じ乾漆造りで、伸
びやかな腕の線が特徴的だ。薄暗い堂内で金色に輝くお姿を古代の人はどんな気持ちで見
上げたのだろうか。聖武天皇はどんな気持ちでこの前で手を合わせたのか。古代に思いを
馳せる貴重な時間だった。お堂の柱に額を付けてこの時間に感謝する。        

法華堂(三月堂)の案内看板。 法華堂。堂内の仏像は奈良時代の至宝。素晴らしかった。

 三月堂から春日大社への道を辿る。途中せせらぎの横に絵に描いたような茅葺き屋根の
茶屋があり、非毛氈の台があったので休憩する。カミさんは抹茶と和菓子、私は中瓶のピ
ールで休憩。外国人が来るたびに写真を撮る。まあ、純日本的な風景だから格好の被写体
だ。                                      

緑がきれいな若草山。鹿がたくさんいた。 この茶屋の佇まい。思わず写真を撮りたくなる。

 坂道を登ると春日大社の石灯籠が見えてきた。どうやら正面ではなくて横から入ること
になったらしい。朱の廻廊を歩く。春日大社らしい色だ。中を覗けるところから見ると春
日大社ならではの吊り灯篭がずらりと並んでいる。                 
 春日大社は平城京遷都の折に時の権力者、藤原氏の氏神として建立された。ご神体は鹿
島神宮から勧請した武甕槌命(たけみかづちのみこと)と香取神宮から勧請した経津主命
(ふつぬしのみこと)であり、天孫系の神様だ。他に藤原氏の祖先神である天児屋根命(
あめのこやねのみこと)と配偶神と言われる比売神(ひめかみ)が続く。藤原の繁栄を祈
るための神社から徐々に庶民の信仰を受けるようになった歴史ある神社だ。元々は春日山
がご神体だったという説もある。                         

石灯籠がたくさん並んでいる。春日大社に来たようだ。 朱色の廻廊をくぐって南門の方に回る。

 御朱印所でカミさんが御朱印をもらう間、周辺を歩き回ったが、特に見るものはなかっ
た。本殿に参拝し、周囲を歩いた。横から入って南門から出るという不思議なルートの産
廃になってしまったが、春日大社のありがたさには変わらない。           
 参道を下りながら膨大な数の石灯籠に驚く。古代からの歴史が石灯籠で刻まれているよ
うだ。あちこちで鹿が人を追う。どこにでも鹿がいる。これだけ人間に慣れた鹿がいるこ
と自体が異常だ。手で頭を撫でると頭を下げるのがかわいい。新しい建物があったの寄っ
て見たら、団体バスの駐車場だった。大勢の修学旅行生と中国人の団体がバスに集まって
いた。                                     

中を覗くと春日大社独特の吊り燈籠がたくさん並んでいた。 御朱印所。大勢の人でごった返していた。


壮麗な南門。 階段を降りて振り返る。横から入ったので感動が薄い。


全国の大名から寄進された石灯籠が並ぶ。 手水舎は鹿の像から水が出ている。


途中の鳥居。 ものすごい数の石灯籠。

 奈良公園の前にあるカフェで一休み。公園を歩く人や鹿がよく見える窓辺の席で楽しか
った。美味しいコーヒーを飲みながらゆっくり休み、ホテルへの帰路につく。     
 途中の商店街が楽しそうだったので寄り道する。近鉄奈良駅周辺の商店街は国鉄奈良駅
の周辺よりも賑やかで楽しい店が多かった。ホテルに戻り、奈良最後の夜を楽しむために
出かける。                                   

途中の石仏。 鹿ものんびり休んでいる。


公園も人が少なくなってきた。 帰り道でもう一度興福寺を歩く。五重塔が美しい。

 ホテルのクーポンを頼りに行った店は駅近くのおでん屋さんだった。店が始まったばか
りの時間だったせいか誰もおらず、カウンターで静かに酒を飲んだ。味はイマイチだった
ので早々に店を出た。まあ、外れる時もある。ホテルでは九時を過ぎると食堂で塩ラーメ
ンのサービスがある。珍しいサービスだが、ラーメンの味がいいので今晩もそれを利用す
る。夜鳴きそばサービスなんて気が効いている。外国人のお客様も大満足の様子だった。
 奈良最後の夜が更け、明日は朝一番で東京に向かって走らなければならない。充実した
四日間の旅に感謝だ。歴史と時間を楽しんだ旅だった。               

おでん屋さんで夕食。いまいち・・・ 四日間お疲れ様でした。



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