遠野の釣り


新緑に囲まれ、遠野の奥沢で釣りをした。


 日曜日の釣りを終え、向かったのは遠野だった。遠野市内の温度計が27度を示すよう
な暑い日だった。今日はいつも行っている民宿わらべに宿泊を予約している。     
 新緑の遠野は素晴らしい景色だった。満足できる釣りをした後だということもあるのだ
ろうが、車の窓を全開にして小野リサを聞きながら走る爽快感は素晴らしい。午後の陽射
しと、心地よい五月の風が祝福してくれている。                  

 午後4時、早池峰神社に到着した。参拝をする参道にヤマザクラの花びらが絨毯のよう
に散り敷かれている。この神社は来る都度に何か気配を感じる場所だ。座敷童(ざしきわ
らし)はこの神社の眷属か分身なのではないかと思う。               
 小高い丘には花の終わったカタクリの群落が続き、コシアブラの新芽が群生している。
神域で山菜採りは出来ないので見るだけだが、素晴らしい群落だ。ふと何かの気配を感じ
て見上げたらリスがこっちを見ていた。カメラを向けても逃げない。座敷童の仮の姿はリ
スだったのか??本当にここはなんだか不思議な場所だ。              

 わらべにチェックインする。すぐに風呂に入って汗を流す。一番風呂が嬉しい。風呂に
入っているときに激しい雨と地震が来た。なんだか色々なことが起きる。       
 夕食で一緒になった40代の男性は座敷童に会いに三重県から来たという。真剣にそん
な話をする人とひとときを楽しむのも、ここ「わらべ」ならではのこと。そして、そんな
気分が似合うのもこの宿ならではのこと。山の幸がズラリと並んだ夕食が美味しかった。

大きなブナの倒木が沢をふさいでいた。 手が切れるほど冷たい水が流れている。

 朝、今日もピーカンの晴れ。三日連続の快晴だ。今日はひとりで奧の沢に入る。わらべ
から車を走らせて20分、林道の終点に車はなかった。先行者はいない。       
 すぐに着替えて入渓する。花崗岩の白い岩が清冽な流れを際だたせる。岸の木々はまだ
新芽が出たばかり。渓流シューズを通して伝わる水の冷たさが「まだ少し早かったのでは
ないか?・・」と思わせるが、気持ちを奮い立たせるように竿にレベルラインを結ぶ。 
 水に手をつけると切れるような痛さに思わず手を引っ込めた。こんな低い水温で魚は毛
鉤に反応するのだろうか??                           

見上げると素晴らしい新緑に囲まれている。 きれいな渓相だが、魚の反応はなかった。

 素晴らしい渓相を楽しみながら竿を振るが、アタリはない。魚の影も見えない。走る魚
もいない。一時間くらい何の反応もなかった。少し疲れてきたころ、突然イワナが釣れた
。向こう合わせだった。こっちがびっくりするような釣れ方だった。でも嬉しい。   
 魚がいることはわかった。俄然やる気になるから調子がいいものだ。魚は確かにいた。
上の淵にイワナが定位している。しかし、定位してるのは底近くだ。何度も毛鉤を流すが
見向きもされない。でも、逃げもしない。こっちも意地になって毛鉤を変えて何度も流し
ていたら「まったくうるさいんだから・・」というような感じでふわっと上がってきて毛
鉤をくわえた。                                 
 ゆっくりと合わせると大きな手応え。23センチの良型が釣れた。魚がいたら、逃げる
まで何度でもしつこく毛鉤を流せば釣れることを知った。水温が低いからなんだろう。 

向こう合わせで釣れたイワナ。嬉しい! こんな場所で釣れるとは・・わからないものだ。


このチビイワナは横っ飛びに毛鉤をくわえてくれた。 このイワナは定石通りの場所で釣れた。気温が上がってきた。


順調に釣れるイワナ。 これはもう見釣り。30回くらい毛鉤を流した。


この淵の底に定位していたイワナを釣った。 良型のイワナは嬉しい。

 その後、同じような見釣りで4尾ほど釣った。みんな良型のイワナだった。それにして
も景色が素晴らしい。陽当たりの良い花崗岩に座って川を眺めていると、ずいぶん久しぶ
りの感覚を味わった。川と一体になって自分が空に昇っていくような感覚。流れをじっと
見ていると起きる錯覚なのだが、今日は意識的にそれを楽しんだ。          

まだ細いけど今回の大物、25センチ。 脱渓の場所から下を見下ろす。この素晴らしい渓に感謝。

 右から目印の沢が流れ込んでいる。脱渓の場所が来てしまった。4時間ほどの釣りで7
尾のイワナを釣った。型も良かった。景色も含め大満足の釣りだった。        
 岩手の山の神様に感謝。釣りをした三日間、快晴と程よい暖かさをもたらせてくれた。
そして何より、素晴らしい釣りを楽しませてくれた。こんな事はめったにないはずだ。 
 脱渓しての山道でコシアブラを摘みながら帰る。ちょうど二人分のコシアブラが採れた
。今夜はこれでコシアブラご飯にしよう。長い長い帰り道の先にある小さな幸福を考えな
がら車に向かっていた。                             


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