千曲川の上流にて


久しぶりに【いい釣り】をした気分になった。



今回は千曲川上流に行った。ここ千曲川上流に東馬流(ひがしまながし)という場所が
あり、秩父事件終焉の地として石碑が建っている。そこに詣りたかったのと、同時に釣
りを楽しもうという魂胆だったのだ。昨年友人と入った川を目指したのだが、5時半に
着いた時にはすでに熊谷ナンバーの先行車が停まっていた。仕方なく、そのまま上流に
走り、田んぼの横から入渓した。両側が護岸されていて、芦の中を流れるこの川はどこ
から入ってもさほど風景や釣趣に変化はない。                  

ニューロッド第1号のイワナ。順調な滑り出し。 こんな場所で釣れました。

ツルツル滑る底石に注意しながら遡行する。今日初めて使うダイワの渓流テンカラ竿は
小継ぎのためかワンダーカーボに比べて持ち重りで、慣れるまでに少し時間がかかりそ
うだ。両側の芦に気をとられて振り込みが難しい場所が続く。とある淵の流れ出しで最
初のイワナが釣れた。20センチ程とやや小振りながら、ニューロッドにイワナの魂が
込められたのは良かった。続いて釣れたイワナはネットに納めて写真を撮ろうとしてポ
ーズを直していたら、ピョンと跳んで、見事に遁走してくれた。写真はフレームの角に
頭だけが「ざまあみろ!」という顔で映っていた。                

上が開けて明るい川だが、両側の芦がキャストの邪魔になる。 まんまとネットから遁走した魚の顔が左上に・・

止水のようなプールでライズを発見した。フライなら一発なのだが、テンカラは接近し
なければならない為、こういうケースは難しい。少しでも見破られないように、ライン
の先に6Xのティペットを50センチ程足してパラシュートを結び直す。慎重に接近し
ての第1投!・・バシャ!!「来た!」瞬速の合わせ! ビシッ!という音とともにラ
インが、ふわり・・・大きなヤマメが面食らったように逃げて行った。痛恨の合わせ切
れ。ライズはきれいに無くなってしまった。                   

これは別のイワナ。きれいに映ってくれました。 こんな瀬が続くポイントはドキドキします。

日が昇り暑くなってきた。予報では28度くらいまで上がるような事を言っていた。大
きな岩の上で上着を脱いで遅い朝食を食べる。魚の反応が無くなってきた。ここまでイ
ワナだけで3尾釣って、ヤマメは2尾のバラシ。何とかヤマメが欲しいところだ。気分
を落ち着かせて、気を取り直して上流に向かう。芦の陰からそっと竿を振った時だった
、ガツンという衝撃とともに竿先が右へ左へと持っていかれる。慌ててロッドを立てる
が魚が寄ってこない。ラインが長くて、魚が重くて、外れるなよという願いだけで時間
が過ぎていった。やっとの思いでネットに納めたのが今期最大23センチの幅広ヤマメ
だった。う〜〜〜ん、満足の1尾。この感触がたまらない。            

満足の1尾。23センチの幅広ヤマメ。素晴らしい。 こんな場所がポイントでした。

大きなヤマメを釣ったことで満足してこの川を脱渓。車に戻って東馬流(ひがしまなが
し)を目指して移動する。小海線の小さな小さな東馬流駅には停留所という表記がされ
ていた。歩いて向かった先には「秩父暴徒戦死者の墓」があった。明治政府に反抗した
秩父の戦いは警察や鎮台兵に鎮圧され、菊池寛平率いる最後の一隊がここまで逃げ、千
曲川の河原で政府軍と最後の戦いをした場所なのだ。周辺一帯が古戦場と認識されてい
るようだった。                                

脱渓して写真を撮る満足そうなkuroo。 お墓への案内看板。


大きなお墓の前で自然に両手を合わせます。 トチノキとツガの巨木に守られてお墓と休憩所が建っています。

墓の後方には休憩所が作られていて、そこに座ってお墓越しに馬流の集落を眺めている
と不思議な感覚になる。さぞ迷惑を掛けたであろう人々にこうして祀られる不思議さ。
皆野から上野村、北相木を抜け、ここまで必死の思いで行軍してきた人々が目の前に迫
る鎮台兵を見たときの絶望感。解散して山に逃げ、息を殺して潜んでいる恐怖。様々な
想いが去来し、時間がたつのを忘れた。途中で道を尋ねた集落のおじさんは、とても丁
寧に応対してくれた。こういう人々に見守られてここに眠るのも悪くないかもしれない
なあ、などと考えていた。                           

JR東日本労組の顕彰碑。もと国労組合員として少々誇らしい。 お墓の後方には鎮守の諏訪神社が見守っている。

小海駅前で今晩の宿を見つけた。花屋旅館というこぢんまりとした宿で、ご主人と釣り
の話をしていたら、近くに良い川があるとのこと。その言葉に導かれるように午後の釣
りが始まった。小さな集落を流れるその川は水量は少ないものの魚の反応は素晴らしか
った。ただ、小さいヤマメのようで、アタックが素早すぎて空振りばかりだった。集落
を過ぎる頃までには小ヤマメが1尾という釣果だった。夕方の気配が徐々に迫ってきて
いたので、そろそろ脱渓かなと考え始めていたのだが、その川の本命はそこから先だっ
た。まずは挨拶代わりに20センチオーバーのヤマメがいきなり毛鉤にアタック!これ
は残念ながら掛けバラシ。                           

今晩の宿、花屋旅館。1泊朝食付きで6.600円。 旅館のご主人に教えてもらった川。

その後、淵の流れだし、瀬の流芯、淵の巻き返しなどで次々に型揃いのヤマメが釣れた
。いずれも20センチオーバーの良型だった。毛鉤の時間だったのか、集落前は釣りき
られていたのか??ほんの50メートルほどの間でヤマメを4尾追加したのだった。そ
して、いよいよ暗くなって来た時、橋の下の小堰堤上のプールで派手なライズを発見!
そっと近寄り、目線の高さにあるライズに向かってエルクヘアカディスを振り込んだ。
バシャ!という派手な水音が響き、大きな魚が掛かった。暴れる魚は堰堤から落ちても
淵の中を右往左往している。岸に引きずり上げたら何とイワナだった。24センチの丸
々したイワナが有終の美を飾ってくれた。                    

集落を過ぎてから急に釣れだした。これは2尾目のヤマメ20センチ。 こんな場所で釣れました。


派手な水しぶきを上げて暴れた24センチのイワナ。 この小堰堤が最後のポイントとなりました。満足の釣り。

満足した気分で脱渓し、道を歩いて車に戻る。途中で集落の人に「こんにちは」と声を
掛けると、みんな笑いながら「釣れたかい?」と聞いてくる。「今日はいい釣りが出来
ました」と答えると、「そうかい、そりゃあ良かった」と笑いながら言ってくれる。宿
のご主人もそうだったが、いい人ばかりだ。久しぶりに【いい釣り】が出来た気分だ。

さあ、宿に帰ってお風呂に入ろう。明日は釣りをしないで、朝早くから秩父の畑に行か
なければならないのだ。                            

おまけ1:帰り道、ぶどう峠から見た御巣鷹山。鎮魂の山なみ。 おまけ2:ぶどう峠にある植樹ネット。鹿にはこれが有効。