山里の記憶
3
わらぞうり作り:中村徳司さん
2007. 3. 10
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3月10日の土曜日、小鹿野町原町のとある農家のガレージで小学生の為のわら草履
作り教室が始まろうとしていた。作り方を教えてくれるのは近所に住む中村徳司さん(
75歳)。4月の小鹿神社例大祭で子供達が履くわら草履を自分の手で作ろうという主
旨で行われる教室で、今までも何度か開催しているとのこと。
事前に取材したい旨を連絡しておいたので徳司さんに挨拶すると、徳司さんはすぐに
私の為にわら草履を編んでくれた。いろいろ説明しながら鮮やかに両手を操り、あっと
いう間に1つのわら草履が出来上がった。まるで手品を見ているかのようで、実際のと
ころ作り方はちんぷんかんぷんだった。これは実際にやってみるしかない、と思い徳司
さんにお願いして、小学生と一緒になってわら草履作りに参加することにした。
徳司さんが用意した子供達の為のぞうり作りキット。
ワラ叩きとあっという間に作ってくれたわらぞうり。
草履作りに使うわらは事前に湿らせて、わら叩きでよく叩いておく。こうすることで
しなやかに編むことができる。昔はトウモロコシの皮(実を包んでいる皮)や笹の葉で
草履を編むこともあったそうだ。これは軽くてとても具合が良かったらしい。トウモロ
コシの皮で作った草鞋(わらじ)や草履だったら柔らかくて履き心地も良さそうな気が
する。
子供用に爪先だけは先に編んでおいてくれたもので作り始める。爪先部分は補強の為
に布をわらと一緒に編み込んである。さて本番、わらを3本揃えて編み始める。4本や
5本でも良いらしいが、3本が一番きちんと出来て具合がいいらしい。
4本の縄を縫うように編み込み、わら尻は底側に行くようにし、すぐに新しい3本を
加えて編み続ける。わらの頭部分もかならず底側に行くように編み始める。4本の縄の
間に左手の指を入れておき、わらを一往復させる毎に機織りの要領で手前に強く引いて
締め込む。わらを編み込む時に強く引くと草履の幅が狭くなってしまうので、左の指は
幅が狭くならないようにするためのガイドでもある。
私の足に合わせると14センチくらい編んだところで鼻緒付けをする。鼻緒用に作っ
てある縄を爪先センターで合わせ、自分の足のサイズに合わせ、鼻緒の長さを決める。
決めた位置まで縄をほぐし、ほぐした縄でわらを編むように編み込み、最後の部分で鼻
緒の元部分を締め込んで強化する。左右を同じ要領で止めて鼻緒の原型が出来た。
更にわらで5センチくらい編み、かかと部分の補強のためにわらと布を合わせて編み
込む。この布は手ぬぐいを裂いたものを使っているが、色を好みの色にすると爪先とか
かとにおしゃれな色を付けることが出来る。編み終わったら、中央に折り返していた二
本の縄を強く引いてかかとを作る。この時、かかと中央に当たる部分が凹むようにして
引き締める。こうすると歩きやすさが格段に違うそうだ。底のバリをハサミで切り揃え
て、わら草履の原型が完成した。
みんなでワイワイ言いながら作り始める。
コンクリートの上にシートとゴザだけなのでかなり冷たい。
この原型を焚き火の火で焼いて、表面のバリを滑らかにする。ハサミで切ると足の裏
に刺さったりするので、足に当たる側は火で焼いて滑らかにするのが良いとのこと。裏
の畑にドラム缶を切った焚き火場があり、そこに火を起こす。寒いガレージでの作業が
続いていたため、子供達は焚き火に群がり、歓声を上げながら暖を取っている。炎が立
ち上がったところで徳司さんが一つずつ焼いてバリを取ってくれた。草履本体に火が付
かないようにサッと炙る程度で焼く。わらが湿らせてあるので本体には火が付かない。
さて、作業はいよいよ佳境に入る。鼻緒付けだ。ここがきちんと出来ないと草履の意
味を為さない。ここで登場するのが「緒通し」(おどおし)だ。竹を薄く裂き、滑らか
に研ぎ、上部に挟めるような部分を作った道具だ。これを使って鼻緒をすげる。
鼻緒になる布を中央で二つ折りにして、緒通し(おどおし)で裏に通し、輪を作る。
ぞうり爪先の二本の縄を10センチくらいに切り、半分くらいの量を根本から削り取り
、かかとに向かって折り返し、鼻緒の布で出来た輪に通す。鼻緒になるヒモを上に強く
引き、底の縄を固定する。ヒモを縄をなう要領で3〜4度ねじり、鼻緒になる縄の中央
にかけて止める。縄をねじって裏側に再度縄をなう要領で3〜4度ねじる。これを緒通
し(おどおし)で底に抜いて、先の固定した縄に通して止めれば完成だ。
書くのは簡単だが、やってみると難しい。緒通し(おどおし)が上手く通らない。通
ったのはいいが、縄をなった事がないので、縄のようになうことが出来ない。両手の平
をこすり合わせるのだが、滑るばかりでねじれてくれない。子供達からやいのやいのの
囃し声や笑い声を浴び、最後は指でねじって止めてしまった。縄をなう練習もしておか
ないとまずい。子供達は先生が作るのを見てるだけ。この部分は肝心要の部分なので、
子供達に任せる訳にはいかないとのこと。飾って置くのではなく、実際に使うのだから
当然のことだ。ただ。先生と私しかやっていないものだから、私の下手さがそのまま子
供達の笑いを誘うことになってしまい肩身が狭かった。
鮮やかに手本を示してくれる徳司先生。
やっと出来上がった私の初わらぞうり。履き心地もなかなかです。。
9時から始まった教室はちょうどお昼で終わった。その間、徳司さんから色々な話を
聞くことが出来た。
こうして作った草履や草鞋(わらじ)も実際に履くと3日間くらいしか持たないそう
で、ずいぶんたくさんの草履や草鞋(わらじ)を作り置きしたそうだ。慣れると一足作
るのに1時間くらい。草履も草鞋(わらじ)も同じくらいの時間で出来るそうだ。草鞋
(わらじ)は鼻緒が無い分、手間がかからないが構造が複雑な分時間がかかるそうで結
局どちらも同じ時間がかかるとのこと。
わらは湿らせて作るのがコツだが、急ぐ時はお湯に浸して作ったそうだ。使う前にも
湿らせる事が長持ちさせるコツのようだ。特に渓流で釣り人が使う草鞋(わらじ)は、
履く前に必ず湿らせる事が必要だと言っていた。
昔は学校にもわら草履で行ったそうだ。その内に靴を履くようになると、今度は上履
きとして使っていたらしい。
学校の廊下にロウを塗り、わら草履で滑り比べに興じ、先生によく怒られたらしい。
怒られても怒られても廊下での滑り比べは続いていたようだ。
小鹿野小学校には4年生の時に「名人に聞く」という授業があって、地元のもの作り
の名人が登場して実技や話をしてくれるのだそうだ。わら草履作りの名人とか、門松作
りの名人だとか、様々な名人が小学生と交流しているとのこと。これはじつに素晴らし
いことだと思う。小学生が昔の技に触れる機会はどんどん減っていて、小鹿野や秩父と
いえども東京と同じ生活が出来る現在、昔の技が残っているうちに見せておく事がどれ
だけ大事なことか。ほんの30年前に行われていたことが次々に無くなっていく時代だ
からこそ、大切な授業だと思う。ただ、参加する小学生がどう思っているかは聞きそび
れた。
今回の、お祭りで履くわら草履を作ろうという話もそういう一環で行われていること
だと思う。
「なにもわら草履でなくてもいいと思うんだけどねえ・・」と徳司さんは言いながらも
嬉しそうに話してくれた。小学生が自分で作ったわら草履を履いてお祭りに参加する。
これが恒例化すれば、わら草履作りの技術が継承されることになる。にぎやかに、楽し
そうにわら草履作りに興じる小学生に混じって元気をもらった1日だった。
最後に先生に向かって全員で感謝の挨拶をしたところ徳司さんは満面の笑みで
「悪かったいねえ、ちょうきゅうな事が出来なくってねぇ・・」
と応えてくれた。まだまだ現役、元気な先生だった。