瀬音の森日記 32
山便り・初めてのチェーンソー
1999. 1. 30
今日は炭焼きの窯止めの日だ。二回目だから多少気持ちに余裕がある。それに、
今日はゆっくり出掛ければいいのでそれが何より助かった。9時半に窯に着いて
見ると守屋さんがもう薪割りをしている。急いで身支度して手伝う。
山で玉切りした丸太が200メートル上流の道端に山積みになっていて、それを
運んで割っているのだ。一抱えもある太さの丸太を6本も割ると汗が吹き出して
くる。そこにあった丸太を割り終わると次を運ばなくてはならない。
守屋さんのジープにはワイヤーロープがついていて、その先には太い鉄のピンが
10数本取り付けられている。丸太を道路にズラリと並べ一本一本にピンを打ち
込んでそのまま車で引っ張るのだ。ちょうど結婚式後の新郎新婦を乗せた車が空
き缶をガラガラ引っ張るのに似ている。太い丸太を道幅いっぱいにゴロゴロ言わ
せて引っ張るのは迫力がある。なるほど、こうして運ぶんだったら力は使わない
で済む。こんな車の使い方もあったんだ。
丸太割りが終わると、窯止めだ。九度の煙はほとんど無色になっているが、排気
の温度はまだ高い。これを一気に空気を止めて蒸し焼き状態にするのだ。守屋さ
んの作業は淡々と進む。窯口の粘土で固めた一部分を1センチくらい開けて窯の
中を覗き込むと真っ赤になっている窯の中が見えた。高温で蒸し焼きされた丸太
がこれからその空気を止められ炭化していくのだ。
窯口に丸太で組んだカバーを組み上げて、窯口とカバーの間に土を流し込む。こ
の土が窯口を密閉するのだ。土はサラサラでもうもうと煙が上がるが守屋さんは
淡々と作業をすすめる。手順通りに慣れた作業をしている。窯口が止め終わると
九度を塞ぐ作業だ。九度からの排気は窯口を止めたため、ぐっと低温になった。
九度に蓋をしてその上に土を盛り、山形に整形して作業は終わった。このまま3
日間放置すれば炭の出来上がりである。ここまでで午前中の仕事が終わった。
午後、いよいよチェーンソーの勉強だ。守屋さんのチェーンソーは森林組合で使
っているもので「shindaiwa E35AV」という機種だ。まずは手入れのやり方を
教わる。丸やすりを使った目立ての方法、オイルのいれ方、ガソリンのいれ方、
チェーンの張り方、エンジンのかけ方。持たせてもらうと以外に軽い。
炭焼き小屋まで下りて行き、間伐材を玉切る事になった。小屋のすぐ横の山には
ヒノキの間伐材が斜面に倒されたままになっている。これを4本ほどずり下ろし
て小屋まで運ぶ。担ぐとけっこう重い、腰にくる。これを好きに切っていいと言
うので自宅のストーブ用の薪を作る事にした。
45センチ幅で丸太に印を付けていよいよチェーンソーのエンジンをかける。2
サイクルのバイクのようなエンジン音が山に響きわたる、グリップの部分に引き
金があり、そこがアクセルになっている。引き金を引くと回転が上がり、エンジ
ンが高く叫ぶ。そういえばこの音はよく山で聞いた事がある、あれはバイクでは
なくてチェーンソーの音だったんだ・・・・。
横になった丸太の上からチェーンソーを当てる。グッと先の方に引っ張られる様
な感じになるが、かまわずそのまま押しつけると気持ちいいくらいの楽さで丸太
に刃が入っていく。アッと言う間に丸太は切断された。鋸で切るのとはエライ違
いだ。こんなに簡単に木が切れるとは・・・おそるべしチェーンソー。いや、そ
れ以上にクセになりそうな快感が体に残る。
4本の間伐材は20分くらいで45センチの丸太に早変わり。たまたま通りがか
った武甲山への登山者がじっと見てるが構わず作業をすすめる。今度はマサカリ
でその丸太を割る。これがじつに気持ちいいくらい簡単に割れるのだ。一抱えも
ある太い丸太を割ったあとでは、お茶の子さいさいという感じで割れてしまうの
だ。パカンときれいな音で割れ、あたり一面にひのきの香りが漂ってきて気持ち
がいい。
汗を流しながらマサカリを振り続ける。みるみる割面も瑞々しいヒノキの薪の山
が出来ていく。こうして簡単に薪が出来るのに、山には間伐材が放置されたまま
になっているのだ。みんなで薪作りをしたらなにがしかのかせぎになるだろうに
山に放置された間伐材はそのまま腐っていくしかないのだ。間伐材を使って薪作
り教室を開こうか?出来た薪を売ったら会の資金作りになるし、ストレス解消に
もなるし、一石三丁ではないか?
割った薪をビニールひもで括り束にする。ザッと束ねたのを立てて、その隙間に
薪を1本1本打ち込んでいく。こうやって隙のない薪束を作る。4本の間伐材か
ら15束の薪が出来たのだ。皮付きのひのきのピカピカの薪束である。さあ、こ
れを車に積み込まなくてはならない。車の中はヒノキの香りでいっぱいになるだ
ろう。良いおみやげが出来た。
次回は守屋さんと一緒にチェーンソーを買いに行く。
チェーンソーの感触を手に残し、あとはまた明日から。