瀬音の森日記 34
山便り、チェーンソーを買う
1999. 2. 6
今日の山仕事は薪割り。午前中は炭焼き用の太い丸太を守屋さんと2人で割る。
一通り終わったところで、守屋さんが「どおすんだ?買いに行くけ?」と聞く。
そうなのだ、今日はチェーンソーを買いに行く事になっているのだ。
当初はその辺のホームセンターででも買えばいいか・・と思っていたのだが、守
屋さんに相談したところ「そりゃおめぇ壊れた時ん事を考げえて買わねえとダメ
だんべなあ」と言われたので、守屋さんが使っている専門店から買う事に決めた
のだ。
私の車に2人で乗って秩父市内の「秩父工機」というお店に行く。この店は林業
(山仕事)専門の道具を売っている店で、修理や改造もやってくれる重宝な店な
のだ。おやじさんにチェーンソーを見せてもらう。おやじさんはパンフレットと
現物を比べながら一台一台説明してくれる。パワーとかトルクとかの言葉が出て
くるので、バイクの話を聞いているような気分になる。
おやじさんが仕事の内容を詳しく聞いてくれて選んでくれたのがshindaiwaの
新しいタイプのチェーンソーだった。そのチェーンソーを使って使い方の説明を
してくれ、手入れの説明もしてくれる。そして、オイルとガソリンを混ぜて作る
混合ガソリンの作り方を教えてくれた。
手軽だからといってバイク用の混合ガソリンを使うとエンジンが焼き付いてしま
うので使わないようにという話をしてくれた。チェーンソーのエンジンはバイク
よりもはるかに精密で繊細なエンジンなのだ。回したり持ち上げたり、逆さにし
たりしても調子が変わらないエンジンなので、混合ガソリンはキチンと作らなく
てはいけないのだ。
山仕事に行くときには専用ポリタンクにオイルと混合ガソリンを詰めて担いで行
くのだそうだ。その専用ポリタンクも買った。何だかいっぱしの山仕事人になっ
たようで気分がいい。全部合わせて9万5千円、守屋さんの言葉で2割くらい値
引きしてくれた。
山に戻る前にガソリンスタンドに寄って、ガソリンを2リットル買った。これで
混合ガソリンを作るのだ。いさんで山に帰って昼食。
午後は間伐材を使って薪作り。ヒノキの間伐材を35センチにチェーンソーで玉
切りし、マサカリで割って束にする。これは一人でやっていたのだが、じつに気
持ちのいい仕事だ。沢沿いに吹いてくる風は冷たいが、マサカリを振っているの
で気にならない。汗ばむような運動なのだが、精神が統一されて集中していくの
で、疲れない。マサカリを打ち込む一点だけに神経を集中させて無心に丸太を割
っていく。
静かな山あいにパカン、パカンという音が響きわたり、ヒノキの丸太はどんどん
薪に姿を変えていく。そして、みるみる薪の山が出来ていく。汗に当たる風が気
持ちいいので、ひと休みしながら沢を見る。15センチくらいのヤマメが淵尻に
定位してユラユラしているのが見える。いや、じつに気持ちいいのだ。
作業が終わり、守屋さんが山を案内してくれる。急斜面に細々とついた踏み跡を
頼りに登っていくと立派な雑木林に出た。一抱えもあるナラの木、ヤマツバキ、
リョウブ、栗の巨木・・・・遠くで見ると何てことない雑木林なのだが、こうし
て登って見ると素晴らしい空間なのだ。
そして、その奥の杉林に行く。驚いた事に40センチくらいのおびただしい数の
太い間伐材がそのまま放置されているのだ。守屋さんの話だと運び出す手間が無
いからだとの事。もったいない話だ、ログハウスの一軒や二軒は作れてしまう材
料が山にそのまま放置されているのだ。
どこでもこんなもんだよと守屋さんは言うが、こんなもったいない話は無いだろ
う。いったい日本中でどのくらいの資材が消えてしまっているのだろうか?
30年間育てた杉の大木が利用されずに山で腐るのを待っている。今育っている
杉にとっても良くないし、新しい植物が育つ場所を塞いでしまっている。そのお
びただしい杉の間伐材はまるで暗い海に沈んだ卒塔婆のように見えた。価値の見
直しはいったいいつまで待たねばならないのか・・・・
現実を見つめて、あとはまた明日から。