瀬音の森日記 35


西丹沢の候補地を見る



1999. 2.13


朝7時、東名高速の中井PAで高橋さんと待ち合わせた。今日は西丹沢の候補地
を見に行くのだ。約束の時間までPAでそばを食べながら待つことにした。高橋
さんは15分前にやってきて、やはりそばを食べて行こうという事になった。 

中井PAを出てすぐ、東名高速の正面に真っ白な雪を頂いた富士山がどお〜〜んと
見えた。まったく雲がかかっていない冬の富士山だ。こんなに間近に富士山を見
るのはじつに久しぶりなので、とても気分がいい。イヤ、じつに雄大なのだ。 

2台のレガシィは大井松田を出て246号を西へ西へとひたすら走る。途中で私の
車をデポして、高橋さんのレガシィに同乗する。キビキビした走りを見せるグレ
ーのレガシイの車内にはアメリカンポップスが流れていた。         

車は246号から右に折れて山の中に入る。東京電力新富士変電所を右に見て、目
指すは明神峠だ。地図で言うと、富士スピードウェイの北と言った方が分かりや
すいかもしれない。静岡県と神奈川県の県境になる場所だ。         

目指す林道のゲートに着いた。ここからは一般車は通行止めになっているので、
ゲートを乗り越えて歩くことになる。ゲートはゴツイ鉄の扉で、周辺には様々な
看板が立っていた。登山者に道を案内するもの、釣り人に禁漁期間を案内するも
の、中には神奈川県の自然保護政策が無策だと嘆くものなどもある。本当に様々
な人がこの林道を利用しているようだ。                  

心配していたハンターの車は止まっておらず、心の隅でホッとした。今日は、万
一を考えて誤射予防の鈴を持って来たのだが、必要ないかもしれない。    

2人で雪が凍ってツルツルになっている林道を滑るように下っていった。途中東
電の送電線の鉄塔が建っている。看板があるので見ると「鉄塔敷地には東電が植
林しています」とのこと。「ふ〜〜ん、あの東電がねえ・・・」と一瞬思ったの
だが、考えてみれば当たり前の話だ。何の事はない。            

最初の沢、一の沢に着いた。周辺は杉とヒノキの鬱蒼とした暗い林で、見上げる
尾根部分にわずかに広葉樹が残っているだけだ。沢にかかる橋の横に分収育林の
看板が立っている。高橋さんが「この周辺の杉・ヒノキを全部ぶった切りたい」
と言う気持ちが良く分かる。                       

一の沢を後にして更に下る。ログハウス候補地として聞かされていた広場に着い
た。日当たりの良い平地に作業小屋が建っている。見た目はしっかりした小屋だ
が戸がすぐに開いて、中に入る事が出来た。中は地面がそのまま露出していて、
タタミ四畳ほどの上がりかまちがあるが、タタミは腐っているようで、とてもそ
こに上がる気にはなれない。地面に置かれた薪ストーブも腐っている。避難小屋
としてくらいしか利用価値は無さそうだ。                 

小屋を出て二の沢へ向かう。林道の両側は杉とヒノキが覆う暗い道だ。せめて、
林道と川の間くらい広葉樹の林だったらずいぶん快適な道なのにと思う。   

二の沢に着く。水量は一の沢よりも多い。高橋さんの話だとヤマメはここが一番
釣れるそうだ。型はともかくとして、数は出るそうだ。腕次第だそうだが・・。

ここにも分収育林の看板があるが、見る限りは手入れされている様子はない。水
源かん養林の表示があるが、水源のかん養という事を考えれば、杉・ヒノキでは
本当に水源かん養になるのか?という事があると思う。特に関東では冬は雨が極
端に少なく、冬に葉を付けた杉・ヒノキが多ければ多いほど水源は細くなるので
はないか?もともと、関東の山のほとんどが雑木だったのはそれが自然で、最も
水利用の効率が良かったからではないのか?そんな考えが頭をよぎる。    

文収育林の看板を確認しながら三の沢に向かって雪道を下る。靴のかかとで表面
が凍った雪面を削りながら歩くので足が疲れる。一端溶けて再度凍った雪面はか
かとが滑り、ころびそうになりながら歩いていく。             

三の沢から見る尾根には広葉樹の林が見える。歩道があるので杉林の中の小道を
登っていく。三の沢は三本の沢のうちで最も水量が多い。「水量は多いが魚が釣
れた事は少ない・・」とは高橋さんの言葉。しばらく杉林の中を歩くと明るくな
って広葉樹の林に変わった。急に明るくなり、鳥の声がはっきり聞こえる。やは
り山はこうでなければいけない。冬の広葉樹の林はじつに気分がいい。    

高橋さんと話しながら道を歩く。対岸は黒いヒノキの林が続いている。確か対岸
には分収育林の看板は無かった。もし、あの場所のヒノキを七割切って広葉樹の
森に出来たら、この場所は一変するような気がする。「瀬音の森・西丹沢」の第
一候補は三の沢の右岸にしようという事になった。東京営林局に行って分収育林
の台帳を確認しないと分からないのだが、可能性が見えてきた。       

何よりこの三の沢は渓相がいい。ところどころに広葉樹の林が残っているのも、
じつにいい。「瀬音の森」としての条件は十分にクリアーしている。山頂のブナ
林から沢沿いに広葉樹の林を広げる事は、野生動物保護の上からも望ましいもの
になるはずであり、東京営林局を説得する材料にもなるはずだ。       

分収育林・法人の森という形での契約となれば7対3の比率で取り分が決まる。
7割の杉・ヒノキは契約者のものになる訳だから、契約時点でその7割を切って
しまっても何ら問題は無いのではないか?これが私と高橋さんの作戦である。 

三の沢歩道が切れた場所から上は広葉樹の林が広がっている。沢は落ち込みが連
続する素晴らしい渓相だ。この上流はますます渓相が良くなっていくだろう。 

三の沢を後にしてツルツル滑る林道を苦労して歩いてゲートまで戻る。まるでア
イゼンが欲しくなるような道だ。汗を流し、規則正しく鳴る鈴の音を聞きながら
ひたすら歩く。見上げるたびに思うのは、ここが広葉樹の林だったならどんなに
気持ちいいだろうという事。杉林の中の道は暗い。             

ゲートに戻ってひと休み。一万二千歩を歩いた下見だった。明神峠の奥に富士山
が顔を見せている。「瀬音の森」の入り口で富士山が見える。これも象徴的でプ
ラスのポイントだ。あとは東京営林局との話し合いだ。           

何とかがんばって「瀬音の森・西丹沢」を作りたいものだ。         

富士山を背中に背負って、あとはまた明日から。