瀬音の森日記 37
山便り 2回目の窯開け
1999. 2.16
守屋さんの炭焼きは6日単位で続いている。6日単位という事は当然平日が多く
なるということで、土日だけ山に通っても炭焼きの経験を重ねる事ができない。
という訳で、今日は火曜日なのだが会社を休んで炭焼きの窯開けを手伝いに来た
のだ。仕事も大事だが、山仕事の伝承も大事なのだ。1回1回が貴重な体験とな
るのでムダにできないのだ。
朝6時から作業は始まる。淡々と慣れきった動きで作業が進められる。奥さんと
の連係もア・ウンの呼吸でじつにスムーズなのだ。いったいどんな種類の作業が
あるのか?というと、次のような作業が連続して続けられていくのである。
・密閉した燃し口(かまど)の土の覆いを崩す。
・燃し口の壁を崩し、ブロック、レンガ、焼けた粘土に分ける。
・燃し口の中の灰を掻き出す。
・燃し口奥の壁を崩し、ブロックと焼けた粘土に分ける。
・焼けた粘土をまとめて細かく砕き、新しい粘土と混ぜてフルイにかける。
・粉末の粘土に水を加えてこねる。
・ひたすら粘りが出るまでこねる。(かなり重労働)
この粘土でまた窯口を作るのでていねいにこねておく。
・窯口から一人入り、中の炭を静かに出す。
窯口にシートを敷き、その上に炭を置き、シートの両隅を2人で持って運ぶ。
・これを窯が空になるまでくり返す。
窯の外には炭の山ができる。窯の中はサウナ状態で汗が吹き出してくる。
中腰の作業なので腰がつらい。顔も服も頭も真っ黒になる。
・空になった窯の中にケヤキの小枝のボサを均等に敷く。
・円形の窯の中の奥から、炭の材料となる薪を立てて詰める。
なるべく垂直に、隙間の出来ないようにギッシリと詰める。
・薪と天井の隙間に棚木を詰めて隙間を埋める。
・燃し口ぎりぎりまで薪を立てて詰める。およそ約半坪量の薪が必要となる。
(1坪量は1間×1間×1間=1.8立方メートル)大量の薪である。
・燃し口奥の壁を粘土とブロックで組み上げる。上を10センチ開ける。
・燃し口の手前にかまど部分を作る。これもブロックと粘土で作る。
・開放された下の燃し口で薪を燃す。これは杉・ヒノキの間伐材で良い。
驚くほど大量に詰め込んで、ガンガン燃す。
ここまででやっと作業が一段落する。要するに素早くこれだけの事を終わらせて
から初めての休憩になるのだ。それにしても腰が痛い・・・・ああ〜〜しんど。
6時から始めて一段落したのが8時半、あとはこのまま午後の3時まで火を絶や
さず燃し続けるのだ。その間には出来上がった炭の袋詰めと、次回の材料準備が
ある。
それにしても守屋さんの動きにはムダがない。67歳とはとても思えないくらい
良く動く。私がついていけないのも情けないのだが、こればっかりは仕方ない。
短い休憩時間に炭の事を考えた。炭の効用については最近とみにその素晴らしさ
が叫ばれている。本来の使い方であるところの物を焼くための炭、バーベキュー
での炭はもちろんなのだが、水を綺麗にする、匂いを消す、ご飯がおいしく炊け
る、湿気を取る、畑に蒔いて土壌改良に使う、などなど枚挙にいとまがない。
これほど大量に炭が必要とされている訳なのだが、どうやってその炭が作られて
いるのかを知っている人は少ない。炭が出来るメカニズムも知らないし、どこで
作られているかも知らない。これほど価値のあるものなのに、何故こんなに安い
のかも考えた事がない。
それは巨大な工場で作られるのではなく、こうした山あいの谷間で細々と白い煙
を上げて作られるのだ。化石燃料と違い材料は再生産が可能な木材なのだ。石油
石炭が無尽蔵にある訳ではない。原子力にいたってはコントロールすら出来ない
状態が続いている。科学万能の時代ではあるが、昔から作られているこの「炭」
をもっと見直しても良いのではないか?そんな気がしてならない。
どんな木でも「炭」に出来る。山の廃物利用なのだ。窯は粘土で出来ていて、壊
せばそのまま山に溶け込むのだ。先人の知恵は深い。この循環する工場の発想は
現代の工場よりもどんなにか環境にやさしい素晴らしい発想ではないか?
ゴミを作らず、ムダになるものがない。ダイオキシンなどは縁もない工場だ。こ
の経済優先の時代には「炭焼き」が衰退していく事は仕方のない事かもしれない
が、必ず見直される時がこなければおかしいと思う。それまでこの技術を伝える
義務が我々にはあるのではないだろうか。
「炭」を考えながら、あとはまた明日から。