瀬音の森日記 82
東大芦川ダムに反対する
1999. 9. 26
9月26日(日)西大芦漁協組合長の石原政男さんに会いに行った。栃木県が進めてい
る東大芦川ダム計画について聞き、現地を案内してもらう為だ。待ち合わせの場所には
漁協書記の宮坂さんが来てくれて組合長の自宅まで先導してくれた。組合長の自宅は日
当たりの良い高台にあり、藁葺き屋根で広い土間のある農家だった。杉やコナラの苗畑
に囲まれていて、造林にかかわる仕事をされている事が分かった。
土間のテーブルで石原組合長から様々な資料を見せて頂き、宮坂さんから今までのいき
さつや反対運動のあらまし、争点などについて伺った。以下このダムの概要をまとめて
、問題点がどこにあるのかを考えてみる。
東大芦川ダム計画は、昭和48年(26年前)に栃木県河川課が計画した。ダムのパン
フレットによればこのダムは(1)洪水調節(2)流水の正常な機能の維持(3)水道
用水となっている。高さ82m、提長(幅)223m、集水面積は23.4km2、湛水
面積0.42km2、総貯水容量983万トンという大きさである。
310億円の建設費が見込まれているが、それに100億円の浄水プラントをプラスす
る事が予想され、建設費はもっともっと膨らむ可能性が高い。ボーリング調査などです
でに21億円が支出済みと言われている。現地ダム建設事務所には8人の所員がおり、
来年には水没地区の立木調査が終わることになっている。
宮坂さんが言う。「ダム建設が鹿沼市の水資源問題として語られる事が問題だ。水道水
という人質を取られている。ダムと水道をリンクする事がおかしい」
「選択取水装置によって下流への影響はないと言うが、そんなはずはない」
「利水権を得るためのダム作りに疑問を感じる」
「だいたい、環境の一番いいところにダムを作るな!どうせ作るならどうしようもない
ところに作ればいいんだ。」
宮坂さんの舌鋒は鋭く計画の矛盾を突く。
そもそもダム建設の目的となっている「洪水」について、この地区がかつて洪水に遭っ
た例はない。「流水の正常な機能の維持」についてはダムそのものが流水を遮断する装
置なのだから、流水の正常な機能を維持するためには存在しない方が良い事は子どもで
も分かる。「水道水」については、現在鹿沼市の水道は地下水でまかなわれており、十
分足りているとのこと。今後大幅な人口増加は望めず、むしろ減少傾向にある今、ダム
を作ってまで水道水を確保する必要はない。また、水道水だけであれば取水堰を工夫す
ればダムを作るよりもきれいでおいしい水を確保出来るのは分かっている。
こうなると、このダムはいったい何のためのダムなのか?これは多目的ダムでは無くて
無目的ダムとしか言えないではないか。まさにムダなダムの典型だ。
石原組合長とダムの場所を見に行く。途中車を停めて支流の小桧沢(こびのきざわ)を
見る。組合長が流れを見ながら静かに言った。「きれいな沢でしょう。この沢にはね、
秋になるとイワナが登って産卵するんですよ。私ら、ここの産卵床を作ったり、冬でも
水が涸れないように見張ってるんです。もちろん交雑を避けるためにイワナの放流はい
っさいしていません。ニッコウイワナの純系種ですからね・・・。」
今年は10月24日(日)に産卵床作りをするそうだ。もし都合がつけば私も参加した
いものだ。毎年繰り返されるこうした地味な作業が川やイワナを守っているのだ。漁協
の人達の魚と川への愛情を感じる。
ダム建設予定地に着いた。通称「山伏落とし」と呼ばれている峡谷だ。急峻な谷に削ら
れた道路からガードレール越しに谷底をのぞくと、はるか下に白泡の流れが見える。確
かにダムを建設する人間から見れば「ここが最適」と思わせる場所なのだろう。
石原組合長から明治以来のこの山の歴史を聞く。昔の人々がどんな苦労をしてこの山の
上流に植林したか。その先人の苦労の結果、この川が栃木県一水のきれいな清流になっ
ているのだということ。この豊かで清冽な流れは全ての人の財産だ。
ダムに水没する予定の河原に降りてみる。素晴らしい渓相だ。禁漁期間でなかったら釣
りをしないではいられない流れが目の前にある。目は無意識にポイントを次から次に探
している。鍋淵の青々とした透明な深さに感動する。ダムが出来ればこの渓流も淵も湖
底に沈む。
「悔しいやいねえ、ダムなんてえもんに20何年も振り回されて。」ダムに翻弄されて
病に伏した友人の話を無念そうに語る石原組合長にかける言葉がない。
ニッコウイワナの原種が住むといわれている谷、県下一の清流、この川にダムを作って
はいけない。ダムを作る事は先人の苦労を無にし、未来の人達へ大きな禍根を残すこと
になる。この川は絶対せき止めてはいけない。ダム建設絶対反対を力強く語る石原組合
長に微力ながら出来る限りの協力を申し出た。
これ以上川を壊されてたまるか・・・あとはまた明日から。