瀬音の森日記 85
東大演習林勉強会 二日目
1999. 10. 17
演習林勉強会の二日目の朝は7時に起床。すでに今日用事のある高橋さんと加藤さんは
帰っている。朝食はどんぶりご飯にきのこ汁、焼き肉、麻婆豆腐、リンゴサラダ、ハム
サラダ、ゆで玉子、バターロールと食べきれない量。昨夜のお酒がまだ残っている人も
いて食はあまり進まない。
8:30、身支度をして出発。入川沿いの林道を走る。途中二カ所のゲートがあって一
般車は入れない。矢竹沢から演習林の林道はグングン高度を上げて行き、見る見る見晴
らしが良くなっていく。突然、鹿が車の前に飛び出した。立派なメス鹿だ。こちらをじ
っと丸い目で見て「フン!」と迷惑そうに藪に入っていった。
この林道の終点まで走った。標高1200メートル、赤沢谷の上、周りは原生林が広が
っていて空気が冷たい。林道工事の土砂捨て場となった場所に生えていたツガの大木が
枯れている。生きている木でも、周りを土砂で固められると枯れてしまうのだ。
ブナとイヌブナ林の中に作られた「大面積プロット林」を見る。林を20メートル間隔
で区切り、全ての植物を計るというとてつもない調査をしている。植生、育ち具合等を
各プロット毎に詳細に記録する事で、多くの森林の事実が明らかにされるのだそうだ。
細かく地味な作業に頭が下がる。5年ごとに記録を更新するとのこと。小さな実生には
ミニチュアの旗が立てられていて、その成長が記録されている。樹冠を見る為の25メ
ートルの鉄塔が建っている。ロボットカメラで周囲の撮影をするのだが、時には人間が
登って観察をする事もあると言う。さすがに参加者の中から「登る!」という人はいな
かった。
更にバスで移動しながら各種の研究林を見学する。66年生のケヤキ一斉林。ここはケ
ヤキの二次林で、針葉樹でなく広葉樹を造林するとどうなるかが良く分かる林だ。間伐
のやり方など、まだ研究すべき課題は多いが、瀬音の森がどのような森を目指すのかが
この林で少し見えてきたような気がした。ただ、商品価値を持つのには、あと200年
はかかるようだ(泣)
続いて、ヒノキの復層林。上木は69年生のスギ、ヒノキ。下層林にびっしりと植えら
れた小さいヒノキの林。60年前から間伐を繰り返し、徐々に木の間隔を空けて現在の
形に至っている。今はこの上木のスギ1本が2万円、ヒノキが3万円だそうだ。切り出
す人件費の日当が1万5千円では、とても採算が合わない。時代は木を採算で考えるの
ではなく、そこに存在する事に価値を認めるようになって来るのだろうか?
次に見たのは長伐期施業試験地。ヘクタール100本・200本・400本と間伐密度
を変えてスギを育てている。一部無間伐のエリアも残している。適正な間伐とは何か?
間伐密度を変える事で育ち方はどう変わるのか?カンや経験値だけではない林業の基本
が、こうして数値化されている。他にも天然針葉樹の遺伝子貯蔵林の計画や、各地のブ
ナ育成実験などが山の中の試験地で続けられている。
10:00、矢竹沢で車を降り、入川軌道跡を歩く。ここは昭和49年まで森林伐採の
トロッコ列車が走った跡だ。入川の渓谷美を堪能しながら、大村さんが説明してくれる
渓畔林の解説を聞く。サワグルミ、シオジ、トチ、カツラ・・・巨木が渓谷全体を覆っ
ていて壮大な景色が展開する。木に目を奪われると足元がおぼつかなくなり、ヒヤッと
する事が多くなる。
歩きながら大村さんが言う。「あのへんでは毎年ペアリングが見られるんだけど、今年
はいないね〜」そう、大村さんはイワナの研究もしているのだ。沢に潜って生態調査を
した事もあるとのこと。渓畔林と魚の関係をこれからも研究し続けたいと言っている。
11:30、赤沢出合い到着、大休止。JICKYさんがキノコを見つけた。ナラタケだそ
うだ。他にもブナハリタケ、ブナシメジが袋に入っている!・・・い、いつの間に!
木ではなく、足元と倒木を見ていれば良かった・・・まあ、キノコ採りは、帰り道に期
待しよう。全員で集合写真を撮る。木漏れ日の中の爽やかな休憩だった。
帰り道、念願かなってムキタケを手にした。昨日のブナハリタケと合わせて、良いおみ
やげが出来た。あとは、ひたすら歩いて出発地点の矢竹沢出合いまで戻るだけ。渓谷を
見ながら、ゆっくり歩きたいところなのだが、皆さん足が速いこと速いこと・・(汗)
車について、一休みしてから、宿に帰る。入川の渓谷はこれからがもっとも美しいシー
ズンを迎えるのだ。もう一度来てみたいものだ。
1:00、宿舎で昼食。朝食で食べきれなかった食事が昼食になった。歩き回ってきた
ので食がすすむ。ほとんどきれいに食べ終わって、ひと安心。何せ、ゴミは全て持ち帰
るのだから、食べるに越したことはないのだ。それでも残ったゆで玉子は強制的に分配
した。帰り道、車の中で食べてもらう。
全員で後かたづけをする。私は空き缶の大きなゴミ袋を車の荷台に積み込む。一升瓶も
持ち帰る。生ゴミはハミングウェイさんが車に積み込んでくれた。最後に大村さんに挨
拶してもらい、お礼を言って勉強会は終了した。そして、三々五々会場をあとにした。
今回の勉強会は大村さんの存在無くしては成立しえなかった。この場を借りてお礼申し
上げます。大村さん、本当にありがとうございました。
瀬音の森を具体的にイメージしながら・・・あとはまた明日から。