瀬音の森日記 9
瀬音の森 事業部発足へ
1998.8.21
いよいよ、瀬音の森事業部の事を社員に話す時がきた。今までいろいろな作業を進めてい
るので、社内では公然の事実のように扱われているが、正式に話してはいなかったので、
一体社長は何をやっているんだろうか?という不審の目で見られていたように思う。
正直なところためらいもある。いっそこのまま仕事以外の時間で出来る事だけやっていれ
ば良いのではないか。何もわざわざ会社の定款を変更するような事までしなくても良いの
ではないか・・・・・いろいろ考えたが結局話す事に決めた。どうなるか分からないが、
社員が何も知らないという事は良くない。いずれ分かる事でもあり、いずれ協力してもら
う事もあるだろうからだ。
応接に社員を集めた。そして言った「じつは、今度、新しい事業部を作ることにした。」
社員の顔に緊張が走るのが分かる。何を突然言い出すのか?という顔がこっちを向いてい
る。
「瀬音の森事業部という部を作る。その内容はこういう内容になる。」
事業計画書のようなものを作っておいたので、それを見せる。みんな食い入るようにそれ
を読む。一同何だか分からないという顔をしている。それはそうだ、我が社はデザイン会
社であり、デザインをしていれば良かったのが、急に林業をやると言われたのだから。社
員にしてみれば何が何だか分からないのだと思う。
そこで一言一言かみ砕くように話した。
・フリーハンドは今まで通り何も変わらない事。
・事業部といっても黒沢一人が担当する事。
・社員の仕事内容に変化は無いし待遇も変化しない事。
・黒沢は今までの仕事を今まで通りやり、空いた時間で瀬音の森の仕事をやる事。
・4〜5年で別会社として独立させる事。
・瀬音の森はフリーハンドの保養施設として使える事。
そこまで一気に話した。社員の顔にはやっと安堵の表情が浮かぶ。やっと私が何をやろう
としているのかを分かってくれたようだ。そこで、今度はこの仕事の意義について話し始
めた。
・今、木を植えて森を育てる事がいかに大事な事か。
・デザイン会社が木を植えて育てる事の意味。
・豊かな森を作ることがいかに素晴らしい事か。
・ボランティア精神がいかに貴いか。
・我々が出来る事をやる事が、今、いかに重要な事か。
女性の反応は早い。目を輝かせている。理屈ではなく感覚で分かる類の話らしい。そこへ
いくと男性はやはり現実を見る。大丈夫と言っても本当なのか?自分の仕事がこれ以上厳
しくなることは無いのか?と不安が残るらしい。
松原から質問が出る。
「フリーハンドの利益分を全部つぎ込むんですか?」
「いや、そんな事はない。瀬音の森として自立する道を探すつもりだし、それが出来ない
ようだったら瀬音の森を作る意味も無い。」
青木から質問が出る。
「黒沢さんは別会社にした時、そっちに行っちゃうんですか?」
「いや、最終的には週のうち3日フリーハンドで、4日瀬音の森という感じになると思う。
フリーハンドは最後まで責任とれと加藤さんからも言われている。」
口に出せない不安はたくさんあると思うのだが、皆好意的に聞いてくれた。あとは自分が
言った事を一つ一つ実行することで納得してもらうしかない。全てを公にして話し、実行
する。それでダメなら仕方ない。そんな決意を与えてくれた2時間だった。みんなの期待
に応えなければならない。
この業界では本業以外の仕事に手を出す会社は危ないと言われている。バブルの頃からの
話だが、おそらく私の会社もそんな噂が立つに違いない。結果が全ての社会だから、何と
しても瀬音の森は成功させなければならない。
9月の取締役会で(株)フリーハンドの定款は以下のように変更になる。いよいよ正式に
瀬音の森事業部の発足である。
株式会社フリーハンド 定款
目的
1、広告デザインの企画、製作、管理
2、パッケージデザインの企画、製作
3、新聞、雑誌広告の企画、製作
4、植林、造林、営林業務
5、林産物(加工食品、木工品、竹製品など)企画、製造、販売
6、イラスト、ポストカード、カレンダーなどの企画、製造、販売
7、釣り具、玩具などの企画、製造、販売
8、アウトドアセミナーの企画、開催
9、飲食、喫茶、宿泊業務、キャンプ場の経営
10、遊魚場の企画、営業
11、前各号に附帯関連する一切の業務
以上
決意もあらたに、あとはまた明日から。